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『ストリップへ行こう』
ヒル魔。ストリップ見にいくか?
ムサシの口から出てきた台詞に驚きもせず、嫌悪感を示すでもなく、「ストリップ?」とヒル魔は淡々と問い返した。
ふたりとも浴衣姿だ。
武蔵工務店ご一行様の慰安旅行に、棟梁の息子であるムサシと、なぜかヒル魔が混ざっていた。
最近、麻黄第十三中学校に、アメフト部が設立された。部員はわずか3名。設立の詳細は一切不明。詳細を知っているハズの男は、黒い表紙の手帳を片手にニヤニヤと笑うだけだった。
ムサシは部活を始めたことを大工の棟梁である父親に隠したりはしなかった。家業を手伝えない理由をきちんと説明しなければならなかったから。
その棟梁から、部設立の祝いをかねて、と社員旅行に誘われたのが、なんと昨日。どう考えても、急用と急病で参加できなくなった社員の代わりだろうとムサシは思ったが、一応ヒル魔と栗田に連絡をいれてみた。
栗田はやはり家の手伝いがあって、不参加。ヒル魔はヒマそうにしていたが、乗り気ではなかったのだが。
「じゃあ、あとは……」
と、ムサシが名ばかりのアメフト部顧問の名をあげると、「……ヤツを行かせるぐらいなら俺が行く」と言うので、こうなっているわけである。
ここは田舎の温泉旅館。一泊二食付きで一万を切る安さの宿。当然、設備もサービスも食事も期待のしようがなかったが、とりあえず温泉だけは天然だった。
宴会場で浴びるように飲みつづける大人たちは置いておいて、ふたりはひとっ風呂浴びてきたところだった。ほかのものは大方カラオケへなだれこむだろうから、宴会場へは戻らず部屋でゴロゴロしていようと決めた。
ヒル魔が行きがけにバッグに放り込んできたアメコミを開いたとき、小用を足しに行っていたムサシが戻ってきた。
そこで言ったのが、先の台詞である。
「ああ。ちょっと先に劇場があって、そこでやるんだってよ。行くか?」
「行くと思うのか?」
「……いいや」
「んじゃ誘うな」
あからさまに興味なさげに吐き捨て、ヒル魔は視線を雑誌に戻した。
「厳ちゃーん、行くよー」
ろれつのあやしい男のだみ声が聞こえた。
「行ってこいよ、厳ちゃん」
視線は雑誌に落としたまま、ヒル魔は口角を吊り上げてからかい口調で言った。
「しっかし、テメーんとこ、どうかしてるぜ。俺ら中坊だぜ」
「お前の口からそういう台詞を聞くと違和感あるな。……ちょっと待ってくれ! 今ヒル魔が丹前着てるから」
台詞の後半は、玄関へ向けて。
ヒル魔は勢いよく起き上がった。
「行かねー、つってんだろ! 返事してんじゃねーよ!」
「そう言うな、何事も経験だ」
立ち上がったついでに、とムサシはヒル魔の二の腕をとらえる。
「テメーひとりでみんなと行くのが嫌なだけだろうが」
「そのとーりだ」
片手でヒル魔の腕をつかみ、もう片方で丹前を拾い上げる。
ストリップには実を言えば少々興味がある。けれど、ムサシひとりがついて行けば、顔はどうあれ中学生だ。大人たちがムサシの反応を見ようと視線を集中させるのは予想がつく。
「だから、一緒に行こう」
ヒル魔の返事はきかずに部屋からひきずりだした。
ちょうど、迎えにきたのだろう、工務店の社員とばったり出くわす。
「遅いよー。始まっちゃうよ、厳ちゃん、妖ちゃん」
赤ら顔に怪しい口調の社員は、ムサシの肩を叩くと、きびすを返した。
「……妖ちゃん……」
自分が厳ちゃんよばわりなのだから、そう呼ばれて当然だろうに、意外にもヒル魔にはダメージが大きかったようだ。
ショックをうけた表情で、大人しく丹前に袖をとおしてムサシにくっついてきた。
ムサシとしてもそのほうが面倒がないので、フォローもせず黙っている。
温泉街の細い道路を集団で歩く。その中にはさすがにムサシの父親である棟梁の姿は見えない。ふたりは最後尾だ。前を行く男たちは卑猥なことを大声で言い合いながら、おぼつかない足取りで歩いている。
ちょっと先にあるはずのストリップ劇場が、とても遠かった。
もっともその間にヒル魔はショックから立ち直ったようで、歩を運ぶうちに元の無愛想な表情になっていた。
劇場の入口に立っていた燕尾服の男は、あきらかに18歳未満のヒル魔をちらりとみたが、団体客のひとりと見てあっさりと通過させた。ムサシにはもとより疑いはかけられていない。
布がすりきれた小汚い椅子がならぶ、ほんとうに小さな劇場。正面に舞台。
武蔵工務店の男たちは最前列に殺到した。ムサシたちは一番後ろに座る。それでもさほど舞台から離れているわけではない。従業員らがしきりに手招きしたが、無視した。
「かぶりつきってやつだな」
ぼそり、とヒル魔。
すぐ始まるというのに、武蔵工務店の人間以外には、ぽつり、ぽつりとしか人影が見えなかった。
「あんま流行ってねーな、ここ」
ぐるりと客席を見渡してムサシが言う。
「ムリもねーだろ。わざわざストリップ来なくたって、いくらでも代わりがあるんだしよ」
「だよな……」
「アメリカだと、完全にショーになってるから、事情は違う」
言葉の最中に、ふっ、と照明が落ちた。
マイクを通した男の声が響く。
「みなさま、おまたせいたしました! 当劇場人気ナンバーワン橘遥ちゃんによる……」
すると、ヒル魔がぽつり、と言った。
「タチバナハルカ……?」
「知ってるのか?」
「聞いたことある。たしか、何年か前に引退したAV女優だ」
するとそれに応えるように、前にいた男たちが「ヨーちゃーん」と叫んだ。
思わずムサシは隣を見る。ヒル魔はあからさまに眉根を寄せていた。
「……ヨーちゃん、て言ってるぞ?」
「その当時、ハルカって名前のAV女優がふたり居たんだよ。で、こっちには音読みのあだ名がついてる。……テメーんとこの社員、よく知ってんな」
苦い口調で、ヒル魔は吐き捨てた。
なるほど、それで熱心に行きたがったのか。
やがてムーディーな音楽が流れ出し、スポットライトの明かりの中に、黒い下着に、なぜかフリルのついたエプロンドレスを着た若い女性が浮かび上がった。
「……なーんだ、あの曲じゃねーんだな」とヒル魔。
「ああ。あの曲って、加藤茶のアレな……」
もちろん二人はドリフターズ世代ではないが、最近なにかと再放送されるので、例の古典的なコントは知っていた。おそらくその曲を流すと、ストリップショーならぬコミックショーになってしまうからだろう。
舞台の上の女は笑みを浮かべながら、音楽にあわせて身体をくねらせている。まだ一枚も抜いではいないが、卑猥な腰の動きに男たちの歓声があがった。
「あ〜。たく。よーちゃん、よーちゃんウルセー」
さっきそう呼ばれたことを思い出すのだろう、半分以上本気でいらだった声だ。
どうどう、とムサシはその腕を叩く。
「先が長そうだな……」
ため息混じりにヒル魔が言い、ムサシは失笑した。
女がエプロンドレスを脱ぐ。もちろん、下着はつけている。
ムサシとヒル魔を振り返る視線がいくつもあった。が、ふたりとも顔色ひとつ変えていないのを見て、つまらなそうにまた舞台を振り返った。
その後も、女が自らの胸をもてあそんだり、下着の上から尻をなぞったりするたびにチラチラと視線が飛んできたが、ふたりは相変わらず反応なしだった。
長い時間をかけて、やっとパンティ一枚になる。
ヒル魔があくびをこらえついでに、ムサシの股間に視線を落とした。
「……なんともなし、か」
「お前だってそうだろう?」
ムサシもヒル魔の腰のあたりをみやる。
「……ん〜。やっぱAV見慣れてっからかなぁ」
「まあ、お前はそうだろうな」
ムサシの言葉にひっかりを感じたのか、ヒル魔はムサシに視線を向ける。横顔に視線を感じたがムサシはそちらを見ないまま、低くささやいた。
「……この間のお前のほうがエロかった」
「馬っ……!」
ヒル魔が大きな声をあげかけたが、すんででこらえる。しかし、すぐに気付いた数人が振り返った。
「おっ、こっちの妖ちゃんがなんか言ってるぞ」
「ウルセー、酔っ払いども。舞台見てろ!」
笑い混じりの声に、すかさずヒル魔の罵声が飛んだ。
こわいこわい、と言いながら、それでも男たちはふたたび舞台上へ視線を戻した。
ムサシは、従業員らが本気でヒル魔の機嫌を損ねはしないかと気が気ではなかった。そうなったら、ヒル魔は本当に怖い。だが、武蔵工務店の男たちはそれを知らない。
「テメーがヘンなこと言い出すからだ。この糞エロジジイ」
ヒル魔は返す刀でムサシにつぶやいた。
ムサシは苦笑をうかべたが、さっき言った言葉は本心だった。
初めてそういう行為をしたのは、数週間前。ヒル魔が「部室」として徴収した体育館の小部屋で。
あのとき、たがいの性器をこすりつけあいながら、ヒル魔が見せた表情が忘れられない。
もし、あの舞台にいるのがヒル魔だったら……。
そう思ったとたん、下半身に熱が集まるのを感じた。
「……ようちゃん、か」
ムサシのつぶやきをとらえて、ヒル魔がにらみつけてくる。だが、ふと視線を落として、ぎょっとした表情を浮かべた。
「オイオイ、なにおったててんだ、テメー」
ムサシのそこが、浴衣を押し上げている。
「いや……お前があそこで腰振ってたらどんなかな、と思ったら、つい……」
ムサシとしてはもう照れ笑いをするしかない。
怒るかと思ったヒル魔は、あきれたようなため息をついただけだった。
そりゃあ、そうか、と思う。ヒル魔があんなマネをするわけはないし、それよりなにより、ヒル魔は男なのだ。
わかっているのに、うずきがおさまらない。
女優は最後の一枚を脱ぎ捨てて、激しく腰を上下に動かしていた。
かぶりつきで見ている男たちも、ここに至っては、もうムサシたちの様子など気にしていない。
「ムサシ、ムサシ」
ヒル魔の声にそちらを向くと、いたずらっ子のような表情を浮かべている。
ヒル魔は手招きするように掌をひらひらと振ると、その手をゆっくりと浴衣の合わせ目に沿っておろしていった。
白い指が帯の上をとおり、組んだひざのあたりへ。するり、と手が合わせ目の間から滑り込んだ。そのままじりじりと上のほうへ。
ふいに、はらり、と裾が割れた。薄暗い客席にもかかわらず、白い太ももが視界に飛び込んでくる。
ムサシは思わず生唾を飲み込んだ。
「……ちょっとだけよ〜、ってか? ケケケ……」
楽しそうにヒル魔は笑って、あっさりと裾をあわせた。
はっと気付いて、ムサシは前方を見やる。
男たちは舞台の上を見ているし、舞台の上の女はかぶりつきの男たちを一生懸命微笑で誘っていた。誰もこちらに注意を向けていない。
ムサシはヒル魔の耳元に唇を寄せる。
「もっと見せてくれよ。妖ちゃん」
さっきは自分から見せたくせに、にらみつけてくる。
「舞台見ろ。俺の見てどうなるってんだよ、馬鹿」
「どうなるもんでもねぇんなら、見せてくれたっていいじゃねーか。お前のが近いんだから、いいだろ」
我ながら理屈のとおらないことだと思う。ムサシは相当欲情している自分を感じる。もっとも、あおったのはヒル魔だ。責任をとってもらいたい。
ヒル魔は目を伏せて、仕方なさそうに裾に手を伸ばす。
乗り気でないからか、あるいは焦らしているのか、ゆっくりとした動きだ。いや、他の者に悟られたくないのかもしれない。
ムサシは文字通り固唾を飲んでヒル魔の指先を見守る。
ヒル魔の指がわずかな動きで、する、と裾を割った。
組んでいた足をゆっくりと下ろす。細い、それでいてやわらかそうな内腿が見えた。
ムサシは自分でもそれと意識する前にそこに手を伸ばしていた。
ヒル魔が驚いた顔でムサシの手首をつかむ。しかしつかまれたまま、ムサシは太ももの内側に手を差し入れ、指に触れる柔肌を愛撫する。
「やめろ……ムサシ……っ」
低く、焦ったような声。手首をつかむ指に力が入る。だが、ムサシは手を離さない。指先と掌でなめらかな感触を楽しむ。
ふたたび、マイクを通した男の声が響いた。
「さて、続きましては、お待ちかね、当劇場名物まな板ショー!」
男たちのどよめきと歓声が相半ばした。
「まな板ショー?」
初めて聞く言葉を、ムサシは繰り返す。ヒル魔はそれどころではないのだろう、応えない。
司会の男が、従業員のひとりを舞台にあげていた。
「あ、オイ見ろよヒル魔。すげーぞ。舞台の上で本番させる気だ」
「……っ。知ってる……っての。それよりこの手どけろよ!」
ヒル魔は両手でムサシの手を押さえにかかっていたが、ムサシはものともしない。あいかわらず内ももを揉みしだいている。
舞台の上では従業員が下着を下ろしていたが、前からぶらさがっているものは元気が無い。
女が手でしごいてやるが、一向に立ち上がる気配を見せない。当然客席からはブーイングの嵐。ひっこめ、といわれて、従業員はすごすごと舞台を降りる。代わりにもっと若い別の従業員が、舞台に引き上げられる。引き上げられるまでは張り出していた股間だが、下着を下ろすと同時に萎えた。女が指でさすり、口にくわえる。
「おお……! 生フェラなんて初めて見るな」
おそらくヒル魔もそうだろうが、ヒル魔はやはり応えない。いや、舞台に目をやってもいないようだ。ムサシの手をつかんで俯いたまま。
ちらり、とムサシはヒル魔の股間を盗み見る。と、そこは確実に反応していた。
指をバラバラに動かすと、ピク、とヒル魔の身体が小さくはねた。
長い前髪が表情を隠しているが、いつも透き通るように白い頬のあたりが上気しているように見えた。
舞台の上の男は、舌でもてあそばれても、回復をみせない。男はペコペコと頭を下げながら舞台を降りた。そしてまた、次。しかしこれも飲みすぎているのか、やはりダメ。
「……難しいもんだな。まあ、素人に舞台の上で本番やれっても、ムリがあるよなぁ。みんな飲んでるし」
ムサシが言うと、ヒル魔が早口で唸る。
「お前、ちょうどいいじゃねぇか。おったててんだし。飲んでもいねーし。俺なんか触ってねーで、ちょっと行って抜いてもらってこい」
一気にまくしたて、息をつく。息の荒さは早口のためばかりではあるまい。
「……俺はともかく、お前はどうすんだ、ソレ」
「っ! ナニ恩着せがましいこと言ってやがる! テメーがこの手どければおさまんだよ」
高い声をあげるヒル魔の口元を、あわてて空いているほうの手で覆う。
唇に指をあてて、しーっ、とつぶやいた。
「俺らがおったててるってバレてみろ、確実に舞台の上にあげられるぞ」
俺ら、の「ら」を強調する。
「……だから、好都合じゃねーか。行ってこいって」
「俺だけですむわけねーだろう」
「……」
ヒル魔は、そんな、と言いたげな表情で黙り込む。
と、その会話を聞きつけたようなタイミングで声がかかった。
「おう、厳ちゃん、行ってみるか?」
「そうだそうだ。もっと若けぇのがいるじゃねーか」
「ヨーちゃんに筆おろししてもらえ? 厳ちゃん」
男たちがふらふらと近寄ってこようとするのを、ムサシは手を振って制する。さすがにヒル魔の太ももからも手を離した。
「妖ちゃんもいるじゃねーか。あー、でも妖ちゃんがヨーちゃんに、ってどっちがどっちだかわかんねーなぁ」
そう勝手な事を言うと、なにがおかしいのか、酔っ払いたちは一斉に笑った。
となりでヒル魔の機嫌が急降下するのがわかって、ムサシは内心あわてる。
「あ、おっさん、後ろ後ろ」
ムサシが指差す方へ、みな頭を巡らせる。
すると、さっき挑戦してダメだった若い男が、素っ裸になっていた。目が据わっている。
だが、股間はそそり立っていた。
「リベンジします!」
そう宣言すると、勝手に舞台の上へよじ登った。
それを応援する声、野次を飛ばす声。
注意はふたたびムサシたちからそれた。
ふう、とムサシは背もたれにもたれかかる。
ヒル魔も小さく息をついた。
「お前がヘンなことするから……」
言いかけたヒル魔を、オイオイ、と遮る。
「また注目浴びちまうぞ。いいのか?」
ヒル魔は露骨に舌打ちしたが、黙った。
舞台の上では、今度はちゃんと挿入できたらしく、男がうめき声をあげている。そして半分以上は演技だろうが、女が喘いでいた。
女は大きく股を広げて、結合しているところを客席にみせつけるようにする。
さすがにモザイクなしのそれは刺激的で、ムサシは息が荒くなるのをおさえられない。
客席の最前列では、みずからを慰めている男も少なくないようだ。
「なにハアハア言ってんだ」
ぼそり、と面白くなさそうなヒル魔のつぶやき。
ヒル魔の股間に手を伸ばすと、ぴしゃり、と振り払われた。なら、仕方ない。
ムサシは丹前の前をあわせておのれのこわばりを隠すと、立ち上がった。
「帰るぞ、ヒル魔」
そう宣言する。
「え? ……?」
ワケがわからない、という表情のヒル魔の腕をつかんで立ち上がらせる。ヒル魔もやはり丹前の前をあわせながらひきずられるように劇場をあとにした。
旅館までのわずかな道のりを、急ぎ足で歩く。
腕をつかまれたままのヒル魔がなにやら抗議しているが聞かなかった。
仲居が挨拶するのへ適当に会釈を返す。
部屋へ戻るなり、扉を閉めるのももどかしく、座布団の上に痩身を押し倒した。
「ちょ……待っ……」
「待てるか」
両手をひとくくりに頭の上におさえつけ、額といわず、頬といわず唇を落とす。ヒル魔は顔を左右に振って、それから逃れようとしている。
「見せてくれよ、妖ちゃん。さっきみてーに」
「妖ちゃん、言う……なっ」
乱暴に丹前をはぎとり、帯に手をかけると、待て、とヒル魔がどなった。
犬におあずけと命じるようだと思いながらも、手を止める。
「脱ぐから、自分で脱ぐから、手を離せ。ムサシ」
いわれて、ムサシは身体をおこす。
ヒル魔も手首をさすりながら起き上がった。
「……たく」
立ち上がって帯を解きかけたが、ムサシの視線に気付いて手を止めた。
そのままくるり、と背中を見せてしまう。
「ヒル魔?」
帯がはらり、と床におちた。ヒル魔が顔だけ振り返る。その口元に、笑み。
次に、襟を大きくくつろげる。細い首筋と、きれいな肩甲骨が半分だけのぞく。する、と右肩から浴衣がすべりおちた。袖は抜いていないので、腰のあたりまでしか脱げない。
同じように、今度は左肩から。と、ヒル魔はぺたりとその場に座り込む。そうしながら、
もう一度肩越しに視線をムサシへ流す。
する、と長い足が横に伸びた。見せつけるように自分の指を舐めると、その白い脛から太
ももへ、みずからの指を這わせる。クモが這うように、ゆっくりと。上まで行ききらない
うちに手を止めて、身体を回転させ、ムサシのほうを向く。やはり口元には微笑。
下着あたりは上手い具合に浴衣で隠されている。
ヒル魔はゆっくり顔をあおのかせると、今度は自らの首から胸まで指先でなでおろす。
胸のかざりで手をとめて、小さな突起をつまむ。
「ん……」
鼻に抜けるような、小さなあえぎ。どくり、とムサシの心臓がはねた。
そのまましばらく指をあそばせると、ヒル魔は立ち上がりながら、また背中を向けた。
腰のあたりに手をかける。下着を脱ごうとする手を、一旦止める。
そうしておいて、ムサシを、誘う視線。
脚から下着を抜き取るのが、浴衣の布地越しにシルエットで見えた。
ムサシはそっと近寄り、背後から抱きすくめる。
とたん、ヒル魔の喉から含み笑い。
「ヒル魔……そんなに焦らすな。みんなが帰ってくる前に終わらなかったらどうするんだ」
言いながら、ムサシはヒル魔の胸へ指を伸ばした。
「そんときは、止める」
「冗談だろ」
ヒル魔が笑いながら顔をねじむけてこちらを見る。視線をあわせながら、舌をからませた。
胸の飾りをもてあそんでいると、そこがわずかに膨らんで硬くなってくるのがわかる。
やはりさっきのあえぎは演技のようで、ヒル魔はことさら気持ちよさそうでもなかったが、とめないところを見ると気持ち悪いものでもないのだろう。
ムサシはその手を今度は下へすべらせる。ヒル魔の前で半ば立ち上がっているふくらみを撫ぜた。
ヒル魔の身体がピクリと震える。
浴衣越しにヒル魔の背中におのれの高ぶりを押し付けると、後ろ手につかんできた。器用に下着のなかからそれを取り出す。しかしさすがに後ろ手のままではやりにくいだろうと、ムサシは左腕の中にヒル魔の身体を収めるように体勢をかえた。まだきゃしゃな身体は、ムサシの太い腕の中に収まってしまう。
ヒル魔は一度ムサシの屹立から手を離す。右腕をムサシの首にまわし、左手でふたたびムサシの猛っているものをつかんだ。親指と人差し指と中指で、先端部分をこきざみにこする。上下左右に、ときには回転するように。
うまいなぁ……。
自分もヒル魔のものに手をのばしながら、ムサシは内心感心してしまった。
ムサシのやり方は、ただ上下にごしごしとしごくだけだ。
ヒル魔の指使いには到底及ばないが、ムサシもヒル魔自身を愛撫する。それでもヒル魔はときおり気持ちよさそうな声を漏らした。
それを聞くと、ムサシの興奮も否応なしに高まる。
「…あ……ムサシ……そのへんに、タオル……が……」
言われて、周囲を見回す。浴衣の入っていた箱のなかに、洗顔用と思われる小さなタオルがあった。手を伸ばしてそれをひきよせ、いつでも使えるように傍らに置いた。
そうしてまた愛撫に集中する。ヒル魔のひざが崩れかかる。腰に回した腕に力を入れてそれを支えてやる。
「は……あ……いい……っ」
ヒル魔が顎をあげて喘いだ。今度は演技ではなさそうだ。
「ああ、俺もだ。ヒル魔」
そう言ってから、ムサシはくすりと笑う。
「妖ちゃん、て言ったほうがいいか?」
至近距離からにらみあげてくる。
「てめ……ん……いい加減、それ、やめろ……」
「なんで? あの女優の気持ちになるか?」
「……なるワケ、ねー……だろ……っ」
「そうか? でも今お前、腰振ってるぞ。あの女優みたいに」
ムサシは腰にまわしていた手をすべらせて、小さな尻をつかんだ。
「あ……っ」
声とともに、ヒル魔の先端からおびただしく透明なしずくがこぼれる。大量の先走りは射精と同じぐらい気持ちいい。
「ああ、あ……」
ヒル魔は腰を震わせながら、喘いだ。熱い吐息がムサシの胸にかかる。
やっぱりこいつのが色っぽいよなぁ。
ムサシはそれを見ながら思う。
細い顎といい高い鼻梁といい、どこから見ても、男なのだが。
薄く開いた唇とか、のけぞらせた喉元とか、なにかをこらえるように寄せた眉根とか、小さくあげる声などが、あのAV女優よりもはるかに妖艶だ。それはおそらく、演技ではないから、なのだろうが。
視線がからみつく。ヒル魔の虹彩の小さな瞳は、ときおり焦点がぼけたり、小さく揺れたりして、多弁に内面の快感を映し出している。
「……はあっ……はあっ……は……」
ヒル魔の息づかいが、せっぱつまったものになりつつある。指使いも速くなる。
「ヒル魔……そろそろ」
熱いものが、己の付け根にあつまってくるのを感じて、ムサシはささやいた。ヒル魔は小さく頷く。
お互い、手の動きを速くする。視線をあわせたまま。
「あっ、あっ」
自分のものにタオルをかぶせ、ヒル魔のほうもタオルで覆う。
ヒル魔の腰が小刻みに震える。やがて声をあげながら吐精した。
それを聞きながらムサシ自身も絶頂に達した。
「そういや、とうとう浴衣最後まで脱がなかったな」
洗面所でタオルを洗いながらムサシがつぶやいた。ムサシにいたっては丹前まで着たままである。
「汗かいた。せっかく風呂入ったのに」
ざぶとんの上で大の字になったままヒル魔が言う。下着はつけているが、浴衣を肩から引っ掛けただけで帯も締めていない。
「もういっぺん風呂行くか」
ムサシの提案に、ヒル魔は異論ないようだった。
了
そして、貸切風呂編へ。もっとヒル魔さんにノリノリで踊りながら脱いでもらおうかと思いましたが、よく考えたらやるわけないからな……。
最後のタオルを乗せるあたりは、かなり滑稽な図ですな。南無……。