『ある夜の出来事』
部室でうとうとしていたムサシは、近づいてくる足音と気配に目を覚ました。
ドアを開けて外をうかがってみれば、ケルベロスの散歩から返ってきたヒル魔が、なにやら叱り付けながら、愛犬を鎖に繋いでいた。
いつもなら、もう30分は戻ってこない。散歩の途中でなにかがあって、途中できりあげてきたものとみえる。
「おう、早かったな」
声をかけると、ヒル魔は眉根をよせた表情のまま、ムサシを振りあおいだ。
「どうした」
「どうもこうもねーよ。なんだか知らねーが、今日はこいつちっとも言う事ききゃあしねぇ」
ケルベロスの傍らにしゃがみこんだまま、ヒル魔はため息をつく。
ヒル魔がため息をつくぐらい、珍しいことではあった。ケルベロスは、ミックス犬……といえば聞こえはいいが、要するに雑種で、見てくれは悪い。その分、犬とは思えないほど頭が良かった。ヒル魔はその賢さを「飼い主に似たんだ」と言ってはばからない。
賢い分、人を見る。たいていの人間には尻尾も振らないか、どうかすると威嚇するが、ヒル魔の言うことはちゃんと聞いた。
ヒル魔がケルベロスを叱り付けるなど、おそらくほんの子犬の時以来である。
ケルベロスは鎖につながれてからも未練がましくそわそわと落ち着かなかったが、ヒル魔とムサシがそろってとがめる視線を向けると、あきらめたのか、そっぽをむいて寝そべった。
「散歩コース外れてどっか行こうとするしよー」
「腹が減って……るわけじゃねえよな。散歩の前に喰ってたし」
「いつもと同じだけ喰わせてる」
ケルベロスはたしかに大食いだが、それは今に始まった事ではない。
「病気じゃねえだろうな」
心配になって、ムサシもケルベロスのそばにしゃがみこむ。家では犬はおろかペットもいないから、これという心当たりはなにもない。ふたりの心配を他所に、猛犬はあらぬ方を向いたままだ。
「別に……舌の色も普通だし、毛並みも同じだし、糞の状態も変わんねぇ」
「……便な」
たしかに、今みたところ、別に調子の悪そうな様子ではない。
ふと、あることに思い当たって、ムサシはヒル魔を見た。
「なあ、もしかして」
「なんだよ」
「発情期じゃねえか?」
「……」
ヒル魔は黙ったままムサシから視線をそらし、またケルベロスを見た。
表情に変化はないが、困惑しているようだというのが、なんとなくわかる。
ケルベロスもそろそろ成犬だから、避けては通れない問題ではあるのだが。
「まあ、こればっかりは俺たちがどうこうしてやれることじゃねぇな」
ムサシは苦笑しながら、言った。
「あ〜あ。なんだか切なくなっちまうなぁ」
冗談めかして言いながら立ち上がり、ムサシは「うん」と伸びをして、帰るか、とつぶやいた。
応えはない。ふりかえると、ヒル魔はまだケルベロスのそばにしゃがみこんでいた。
苦笑して小さくため息をつく。
あいつはあれで結構動物好きだからなぁ。
しかし、ふたりして犬を見ていても仕方がない。
ムサシは部室からカバンを手にして出てくると、「じゃあな」と声をかけた。
おう、と夕日を浴びた背中から、応えがあった。
部室に忘れ物をしたと気付いたのは、ほとんど自宅の近くまで来てからである。
「やっちまったか。めんどくせーな」
教科書、辞書、宿題などは端から学校へおきっぱなしである。が、置いてきてしまったのは、よりによってレンタルビデオで借りたテープだった。
帰り際に返却してくるつもりだった。今日返さないと、延滞料金をとられてしまう。
う〜ん、としばらく唸った後、ムサシは回れ右をした。
すでに周囲には夜の帳が下りてきていた。
校門は施錠されていたが、ヒル魔の入れ知恵のおかげで、どこから校内に忍び込む事ができるかはわかっている。制服姿だから怪しまれないとは思うものの、それでも人目につかないように、校庭へ忍び込んだ。
半欠けの月が、雲に隠れたり出たりしながら、あたりを照らしている。
部室が見える位置まできて、ムサシはぎょっと足をとめた。
部室の前に、人影。だが、びっくりしたのは一瞬で、すぐに緊張をとく。細い影に見覚えがあった。ヒル魔だ。
あいつ、まだ残ってたのか。
そう思いながら、再び歩き始める。
しかし、それにしては妙だな、とふと思う。部室に明かりが着いておらず、ヒル魔は薄暗がりの中で、しゃがみこんでいる。丁度、ケルベロスの小屋の前あたりだ。
そしてその猛犬はといえば、向かい合ってしゃがんだヒル魔の肩にのしかかるようにしていた。
人間の肩に足を乗せさせない、というのは犬のしつけのひとつで、ヒル魔はこれを徹底していた。だから、そんな光景を見るのは初めてである。そして……。
ケルベロスのものとは思えない、絞るような、鼻にかかった高い声を聞いたとき、ムサシにはすべてが理解できてしまった。なにより、ヒル魔の手が。
足がすくむ。一気に頭に血が上った。無意識に空つばを飲み込む。
視線の先で、ケルベロスがせわしない息遣いと切ない声をあげながら腰を振っていた。ヒル魔は右手でケルベロスを抱えるようにし、そして、左手はケルベロスの股間に伸びていた。
目が離せない……というより、見たいと思う気持ちを押さえられなかった。おそらくは、見てはいけないもの。
ヒル魔の長い指が、人間のものとは形状の違うものを、やわらかく握りこんでいる。ケルベロスが腰を動かすたび、手から余ったそれが、見え隠れする。いつもはほとんど毛皮の中にしまわれているものが、今は肥大しているのか、赤黒いものが大きく飛び出ている。
そして先端からは、ひっきりなしに液体を吐き出していた。
やがて、ケルベロスはひときわ高く鳴き、身体を震わせた。
それで満足したのか、ヒル魔から身体を離す。飼い主から少し距離をおくと、やはりそっぽを向いて、何事も無かったかのようにぺたりと寝そべった。
ヒル魔が、左腕を伸ばして掌を下に向ける。指先から、犬の放ったものが、ぽたぽたと滴った。
ヒル魔はしゃがんだままだった。
しかし、ズボンの前がもりあがっているのが、夜目にもはっきりとわかる。
あれ、どうする気だ?
ヒル魔の汚れていないほうの手が、ためらいがちにあがるのが、スローモーションのように見えた。
指先が、形状をなぞるようにみずからのズボンの前をさまよう。
ヒル魔がつめた息を逃がそうと、かすかに口をひらく。
そのとき、ジャラ、と鎖の鳴る音がした。
はっ、とヒル魔が手をひっこめるのと、いつの間にか正面に来ていたケルベロスが主人の下腹部に鼻面を押し付けるのが、ほぼ同時だった。
「あっ」
驚いたような小さな叫び。実際、驚いたのだろう。
「やめ……っ。やめ、ろ、ケルベロス……!」
珍しくあわてたヒル魔の声。犬の頭に手を置いて押し返すが、思うように力が入らないのか、動かない。
そしていつもならすぐ言うことを聞くはずの忠犬が、ヒル魔の言葉にひそむなにかを聞き取ったのか、離れようとしない。それどころか、鼻を鳴らしながらますます頭をこすりつけている。
ケルベロスに深い意図はなく、ちょうどケルベロスの頭の位置にそこがきてしまった。
おそらくそれだけのことだろう。
だが、ヒル魔が震える手で紐をひっぱっても、頑固にふんばっている。
「ケル……ベロス……っ」
あがる息のせいで、叱る声がまるで睦言のように聞こえ
「あぁ……っ」
こらえきれずに漏れた声が、ムサシの耳朶を打った。
次の瞬間、ムサシは走りよって、思い切り紐を引いた。
ケルベロスが驚きと痛みとで、小さく「キャン」と鳴くのが聞こえた気がした。
「ムサシっ!」
次に聞こえたのは、鋭いヒル魔の叫び。
見れば、ケルベロスを庇うように、ヒル魔は犬の身体の上に覆い被さっていた。
その体勢のままムサシを見上げるヒル魔と、なにも気付かずにその下で尻尾を振っている犬とをしばらく見つめてから、やっとぼそりと
「……なんもしやしねぇよ」
とムサシはつぶやいた。
それでもヒル魔はムサシから視線を離さずに、そろそろと、犬を腕の中から解放した。
「……」
「……糞ジジイ。デバガメしてんじゃねぇよ」
「おまえこそ。犬にしてもらってんじゃねぇよ」
「……」
ヒル魔は険しい目つきでにらみ上げてきたが、やがてフイ、と顔をそらせて立ち上がった。
何事もなかったように部室へ姿を消す。
少しして、手を洗っているのだろう、水音が聞こえた。
その水音がやむのをまって、ムサシは部室へ入った。
電気のついていない部室はほとんど暗闇だ。
だが、ヒル魔の目は何がどこにあるか見えているようだ。ためらいなく障害物をさけて戸口へ近づいてきた。
無言のまま傍らを通り過ぎようとするのを、腕をつかんで引き寄せた。
抵抗はなかった。
相変わらず表情は硬かったが、ムサシはかまわず口付けた。
口内をさんざん蹂躙してから顔を離すと、今度はヒル魔からキスをねだってくる。
それに応えながらヒル魔の下腹部に手を伸ばすと、そこはふたたび持ち上がってきていた。
「ケルベロスにされて、気持ちよかったか?」
「……こだわってんな。犬畜生相手に妬いてんのかよ」
「……おかしいか?」
「……あんな事故」
「……」
真顔のムサシを、ヒル魔もまじめな顔で見返す。
ふと、ヒル魔が身体を離した。
「ヒル魔?」
「ここにいろ、すぐ戻る」
その言葉どおり、ヒル魔はすぐ戻ってきた。ただし、ケルベロスをつれて。
「おい、何考えてんだ」
ムサシの質問には応えず、Sit Downと命じる。
それから、机の上のものをバサバサと払い落とす音。
その机に飛び乗って、「ムサシ」とヒル魔が呼んだ。
歩み寄るムサシの首に両手が回る。
「オイ……」
「抱けよ。ケルベロスの前で」
「……」
なおもためらうムサシの迷いを断ち切るように、唇を求めてくる。
舌をからめあいながら、ムサシは机の上にヒル魔を押し倒した。
ヒル魔の前をくつろげ、ズボンと下着をさげる。と、ヒル魔の顎に手をかけた。
「口、開けろ」
「?」
不審そうに眉根を寄せるヒル魔の唇を、ごつい指でムリヤリ割る。噛み付かれるかも、と思ったが、ヒル魔は険しく眉根を寄せながらも、ムサシの指が口内を探るに任せていた。
「ちゃんと湿らせろ。テメーもそのほうがいいだろ?」
「う……」
ヒル魔は何か言いかけるが、男の指が3本も差し込まれている状態では言葉になどならない。
苦しそうにしながらも、ヒル魔はムサシの指に舌をからめる。
「オマエ、フェラ似合うな」
ムサシが言うと、無言で睨みつけてきた。
もういいだろう、とムサシは指を引き抜き、ヒル魔の後ろへ押し込んだ。
ヒル魔は深呼吸をして、その動きを助ける。
慣れた指使いで急所を探る。
中に差し込んだ指と親指とをマッサージでもするように動かすと、ヒル魔の口から嬌声があがった。
「あっ、ああっ」
内部をえぐるようにすると、ヒル魔の膝がガクガクと震える。
「ム、サシ……、もう……」
顎をのけぞらせて限界を訴えるヒル魔の中をなおもかき回すと。
「ぅあ、……イイっ、あ……っ!」
押し殺した叫びが上がった。
ヒル魔の痙攣がおさまるまで、ムサシはゆっくりと指を動かしつづけた。
やがて、ヒル魔が大きく息をついた。
それにあわせて胸が上下している。
そこで飾りのように薄く色づいた箇所に吸い付けば、びくり、と身体が震えた。
「ヒル魔」
前を向くよううながすと、ヒル魔はすぐ承知して、ムサシに背中を向けた。
机の端に正座するように座ったヒル魔の腰をつかみ、己のものをうずめていく。
まだほとんどほぐれていないソコは、メリメリと音がしそうな感じでムサシのものを飲み込んだ。
キツいが、ヒル魔はもっときついだろう。
それでも、ヒル魔は両手を机につき、深呼吸を繰り返して、ムサシの動きを助けようとしている。
やがてすっかりおさまってしまうと、ムサシの口からもヒル魔の口からも、安堵に近い溜め息がもれた。
「ケルベロス、来い」
ムサシが呼ぶと、大人しく部室の隅に控えていた犬は、ピクリ、と耳を動かした。
ヒル魔が振り返ってムサシを見ている。
一方ケルベロスは行くべきかどうかヒル魔の様子をうかがい、おとがめなさそうだと見るや、とことこと近寄ってきた。
「よし、イイ子だ。この上にのれ。ココだ」
ムサシは机を叩く。
「ムサシ?」
ヒル魔が不審をにじませて呼ぶ。
それを無視し、重ねてケルベロスをうながすと、犬は、机の上にとびのった。
ムサシはヒル魔の前で立ち上がっているものを掴むと、ケルベロスに向かい
「舐めろ。喰うなよ」と命じた。
「! なっ……!」
ヒル魔が驚愕で身体を固くする。それを腕でがっちりと固定する。
「ケルベロス」
ムサシが少し声を落として厳しく呼ぶと、忠犬は主人の前に来て、差し出されているものの匂いを嗅いだ。
ヒル魔が、顔をそらす。暗闇でもそれとわかるほど、耳が赤くなっている。
「舐めろ」
もう一度言うと、この賢い犬は、大人しく舌をのばした。
「ああ……!」
とたん、ヒル魔がのけぞる。
「いいのか? ヒル魔」
言いながら、ゆっくりとつきあげてやる。
「馬鹿っ! あっ、あ……ん……」
思い切り顎をそらせて、ヒル魔が喘ぐ。
ケルベロスはまるで水を飲むように舌を先端で往復させている。
「ああ、あ……ああっ……」
ムサシが少し動きを早めると、ヒル魔は頭をふって悶えた。
前はケルベロスがなぐさめ、後ろはムサシが塞いでいる。
「クセにならねぇといいがな」
いたずらっぽく言った声が、ヒル魔の嬌声にかき消された。
「あっ、あ、あっ」
ヒル魔があられもなく声を上げるたび、細い肘や肩が、びくりびくりと動く。ヒル魔自身も、腰を使っていた。
ヒル魔の手がときおりケルベロスの頭を撫ぜ、ムサシの腕をつかむ。
内部が恐ろしい勢いで収縮を繰り返していた。
「ああーっ……ム、サシ、あ……」
いい、いい、とくり返し愉悦の叫びをあげながら、普段滅多に見られない程の嬌態をしめしている。
「も、駄目……だ。あ、イク……っ」
人間にはない熱心さとやわらかな舌の動きで、急速に追い上げられたようだ。
ヒル魔の体が小刻みに震えはじめ、「ああ」と高く叫んで、果てた。その声に残念そうな響きを感じたのは、気のせいではないだろう。
ヒル魔はつっぷすついでに、ケルベロスを押しのけた。
ヒル魔の息が整ってきたのをみて、口を開く。
「……早かったな。そんなによかったか?」
「……」
ぶちきれて銃を持ち出すかと思ったが、ヒル魔はいまいましげに舌打ちしただけだった。
すっかり感じてしまっていたのは、否定のしようもないからだろう。
ふ、とヒル魔が振り返ってムサシの股間を見やる。ヒル魔がずいぶん早く絶頂を迎えたためムサシは置いてけぼりだった。
当然、そこはまだ雄雄しく猛り立っている。
「……コンドーム外せ」
ヒル魔が、そう命じる。
意図はわからないながらも、これ以上機嫌を損ねるつもりはないので、ムサシはその言葉に従った。
ヒル魔が机から降りて、ムサシのそれに指をからめる。
ニヤリ、といつもの笑み。
「して、やろうか。……ケルベロスみてーに」
「……」
否、とは言わないムサシに、ヒル魔は喉で笑った。
半開きになったドアから差し込んでくる月明かりで、互いの顔が見えている。
だが、ヒル魔はムサシのそれを握りこんだまま、手を動かさない。
まさか……。
もの問いたげな視線に、薄く笑みを浮かべたまま、ヒル魔が言う。
「動けよ。言ったろ? ケルベロスみたいに、シテやるって」
「そういう意味かよ。クソッ。最初からわかってりゃ、やめてたぜ」
「ぐだぐだ言ってねーで、腰振れ。終わんねぇ」
「振れったってよ、オマエ……」
「突っ込んだときみてーに動かせばいいだろ」
「……」
ムサシは腕を伸ばして、ヒル魔の身体を引き寄せる。
「キスぐらいいいだろう?」
そうして、返事は聞かずに口付けた。
覚悟を決めて腰を突き出したが、あっさりとヒル魔の手からはずれてしまう。
「ありゃ」
ヒル魔も間抜けな声をあげたところをみると、予想外だったのだろう。
「やっぱり犬とはわけが違うな。固いから……」などと、恥ずかしい事をぶつぶつ言っていたが。
ムサシの前にひざまづくと、両手でそれをくるんだ。
「これなら大丈夫だろ。さ、動け」
「そこまでしなくても……」
手か口でしてくれりゃいいのに。
なんだか萎えそうだったが、ヒル魔が妙に楽しそうに見上げているのを見て、そろそろと腰を動かす。ヒル魔の両方の指の間から、自分のものが出たり入ったりしているのが見える。
気持ち……よくないわけじゃねぇが……。
なんとも複雑だ。このままでイケるだろうか。
すると、そんな気持ちを感じ取ったのか、「サービスだ」と言ってヒル魔が舌を先端に伸ばした。
腰を突き出すと、ヒル魔がチロチロと舌を躍らせる。
これは、正直、イイ。
ムサシはヒル魔の肩に手を置いて、腰を使った。息が上がる。運動しているせいと、与えられる感覚のせいで。
これじゃ、ほんとにまるでさっきのケルベロスじゃねーか。
そう思うが、もう止まらなかった。
「ヒル魔……ヒル魔……」
呼べば、ヒル魔は舌を使いながら、目線だけ上へ向ける。
ムサシと視線がかちあうと、何がおかしいのか、目を細くして微笑った。
ヒル魔の握りこむ力が、ほんの少し強くなる。同時に、ムサシの動きも速くなった。
舌が、器用に、正確にポイントを攻め立ててくる。
「おい、いっちまうぞ。いいのか、出して」
答えはなく。
ヒル魔は、ちゅっ、と先端に吸い付くと、目を閉じて、あ〜んと大きく口を開けた。
これはいかねばなるまい。
「……く……っ」
うめき声をあげながら、ヒル魔の口内めがけて、ムサシは放った。
ヒル魔は目を閉じたまま上を向き、白い喉元をさらしながら、ごくりと嚥下した。
うすくまぶたを持ち上げ、唇に残るそれを舐めとる。
ムサシは乱暴にヒル魔を引きずりあげると、薄い唇に吸い付いた。
「……苦」
「テメーのだよ」
「なあ、ヒル魔」
「なんだよ」
「オマエがケルベロス拾ってきた後。噂があったのを知ってるか?」
「ああ」
「なんだ、知ってたのか」
「くだらねー噂な。バター犬とかいう。ヤルことしか頭に無い連中の考えそうなことだ」
と、ヒル魔はいかにも小馬鹿にした調子で吐き捨てたが。
「そのワリには、気持ちよさそうだったじゃねぇか」
ムサシがからかえば、ヒル魔はすうっ、と顔を赤らめた。が、
「もう二度とやらない」
と妙にきっぱりと言い切きる。
ヒル魔はそう言うなら、そうなのだろう。
ムサシも反論はせず、腕になじんだ細い身体を抱き寄せ、口付けた。
「そういや、俺は忘れたビデオ取りに来ただけなんだが。なんでこんなことに……?」
「なんでもへったくれも。テメーが押し倒したクセして何言ってやがる」
「そりゃ、オマエのあんなトコ見たらおさまらねーよ」
思い出すだけでムラムラきそうだ。
「ヒル魔。オマエだってあのまんまじゃいやだろ?」
「……不可抗力だ」
「俺が来なかったらどうするつもりだったんだ?」
「……」
ヒル魔はぷい、と顔をそむけただけで、応えはなかった。
もしかしてもしかしたら。自分で抜いてた、とか?
さすがにそれは口には出さなかったが。
……もうちょっと慎重に様子を見ていたら。
「もしかしたら、もっとイイトコ、見られたかも知れねえ……ってことか?」
「ナニありえない想像してんだ」
冷たく、ヒル魔が言う。
そういえばそうだ。いくらなんでも、すぐのぞけるところで抜いたりはしないだろう。
それに。
俺も犬に嫉妬するのは金輪際ごめんだしな。
了
オツカレサマデゴザイマシタ。たぶん1ページにおさめる文章量じゃないと思うんですが、この内容を2枚も3枚も分けるのはちょっとなあ…。