「Tools of joy」


目的地と速度などさえセットしてしまえば、あとはコンピュータまかせで、何かが無い限り平穏で単調なのが宇宙航行だ。
ことにヒル魔の宇宙船には「ケルベロス」と名づけられた、軍用コンピュータ顔負けにカスタマイズされた超高性能大型コンピュータが積み込まれており、ちょっとやそっとのことでは警告したりせず、大抵のことは自分で処理する。無論、その報告は船長であるヒル魔には届けられるのだが。
「このでかい船に二人きりだったのか」
ムサシは周囲を見回しながら、ぼそりと呟いた。
乗組員はヒル魔と、栗田という縦にも横にも大柄な男だけ。
栗田は身体の大きさの割にまったく威圧感を与えない、穏やかでやさしげな若い男だった。おそらくヒル魔とは同年代だろう。
ヒル魔が無茶なことを言っても、栗田はのらりくらりと笑うか、困ったように弱弱しく抗議するだけだ。
そして、ヒル魔が突然つれてきたムサシという得体の知れない元軍医を怪しむ事もなく、やわらかく笑いながら、ヨロシクね〜、と言っただけだった。
ヒル魔と栗田はお互いにほとんど干渉しない。無論、仲が悪いわけではなく、お互いを信頼しているのが見てとれた。
そうなるとムサシは内心穏やかではない。
「なあ、ヒル魔」
こっそりと栗田が居ないときを見計らって、声をかける。
ふたりはトレーニングルームにいた。
「あ?」
ダンベルをあげる手をとめて、ヒル魔が応える。
「その……お前と、あの栗田とは……」
「ばぁか!」
一蹴された。
「んだよ。溜まってんのか? エリート軍医さんは」
ニイ、と唇を吊り上げてからかってくる。
「……もう軍医じゃねぇんだから、その呼び方やめろよ」
「わかった。じゃあ……厳」
低く名前を呼ばれて、ぞくりと背筋が震えた。重症だ。
ふい、とヒル魔が立ち上がる。
「おい?」
「シャワー浴びてくる。テメーも浴びて来い」
「あ?」
聞き返すと、やや苛立った表情で振り返る。
「溜まってんだろ。汗クセーままスル気か?」
勿論、異存はなかった。

それから数刻後。ベッドの上に散らばった道具類を、ヒル魔は呆れて見ていた。
「……んだよ。やんねーのか?」
ヒル魔は大きなクッションを背中に敷いて、やや上体を起こし加減に、ベッドに身体を伸ばしている。すでに衣類は身に付けていない。
一方まだムサシは着衣のまま。
自室へ戻ったと思えば、両腕いっぱいに用途不明の……いや、ある意味用途は分かっているのだが……用具を抱えてヒル魔の部屋へやってきた。
そして開口一番、試させてくれ、と頭を下げた。
「まあ……さすがっつーべきか……?」
ヒル魔は性行為に関しては保守的な価値観を全く持ち合わせていないので、OKはしたのだが。
実は変態軍医から軍の字が抜けただけじゃねーのか? とも思っている。
ムサシは薄いメディカルグローブをはめながら、「全部消毒済みだからな」と言う。
「ああ……そう」
やけにテキパキと準備をするムサシに、やや萎えかける。
だが、それも唇を吸われるまでだった。
手を休めないまま、ムサシはヒル魔の唇をむさぼる。舌が突き入れられ、口内を蹂躙する。
ヒル魔はムサシの首に両腕を回して、それに応えた。
舌先をこすり合わせ、唇ではさんでしごく。
あ……勃ちそう……。
そのとき、ムサシがすっと身体を離した。
「勃っちまうと入れにくいから、先に、な」
そう言って、手にしたものを軽く掲げる。
細いチューブのようなもの。形状からすると、おそらくはカテーテル。だが、医療用ではない証拠に真っ黒で、一端に何か四角いものがついている。
見ている間にもムサシは手馴れた様子でヒル魔のそれをつまみ上げ、「ゆっくりやるからな。力抜いてろよ」と言いながら、先端を尿道口へ押し付けた。
直径3ミリほどのそれが、ずるずると自身へ飲み込まれていく。
「痛いか?」
ヒル魔は首を横に振る。
「いや。でも、変な感じ」
むずがゆいような感じだ。
しばらくして、何かに突き当たるようにして、進入が止まる。
「ヒル魔。少し深呼吸してくれ」
言われるままに、深呼吸する。と、ムサシは更にそれを押し込んできた。
「あっ!」
途端、鋭い快感が身体を貫く。
ついでに尿意も沸き起こるが、歯を食いしばってこらえる。
さらにムサシが奥へ差し込む。
むずがゆい感覚と、そしてよりはっきりした快感。
「このあたりだな……」
ムサシが手を止めたとき、ヒル魔のそこは完全に勃ちあがっていた。
先端は前立腺に届いているはずだ。
せまい隙間から尿ではない液体がしたたっている。
次にムサシは薬用クリームを指で掬うと、ヒル魔の後ろへ塗りつけ始めた。
周囲を、やさしくほぐす。やがて徐々に、中のほうへ。
十分にほぐれたところで取り出した黒いもの。
「エネマか……」
ヒル魔にも見覚えのある用具だった。実際に使用したこともある。だが、中央部分からコードが垂れているのは見た事がない。
ヒル魔の呟きに、ムサシは軽く微笑うと、ずるり、と後ろから中へ押し込んだ。ローションで湿らせてあるので、何の抵抗も無く飲み込まれる。
「あ……ん」
じんわりとした快感に、ヒル魔はゆるくのけぞる。
と、次の瞬間、激しく背中を反り返らせた。
「ああっ!? 何、だ……コレっ」
ムサシが両方の電極のスイッチを入れたのだ。
前と後ろ、両方から電気による刺激が送られ、最も敏感なポイントを過たず叩く。
「あっ、あああっ!」
ほとんど一瞬で達した。
あまりに急激で目を閉じる隙さえなかった。視界がチカチカする。
前からどくどくと透明な汁があふれる。射精ではなく、前立腺液だ。
もっとも、当のヒル魔はもうそれを冷静に知覚できる状態ではなかった。
強制的な絶頂はまだ続いている。
「あっ! あっ! あ、ああっ! あっ!」
あふれるように歓喜の声が漏れている。
自身の先端から、後ろの入り口までが脈打つ快感によってまっすぐ貫かれていた。そこから生じる衝撃波が、ヒル魔を無理やり更なる高みへと突き上げる。
全身で身悶えている間も、腰だけが小刻みに痙攣を繰り返す。
びくん、びくん、と打ち上げられた魚のように、汗に濡れた白い身体が波打った。
「あっ、あっ! イク……また、イク……っ!」
ヒル魔は、いく、と絶叫しながら、またアクメに達する。
極めても弱くならない快感。夢中で腰を激しく上下に振りたてる。
だが、どうやって固定されているのか、器具は的確な場所から外れない。
「あっ、あっ! またっ、また……っ」
三度、四度、と絶頂が続く。その度意識を失いそうになるが、失神はしない。
「ひっ、あ……ま……イク、イクっ! あああっ、ああっ、あっ」
開きっぱなしの口からはひっきりなしに悲鳴のようなよがり声があがる。
目じりから、涙がいく筋も流れ落ちる。
無論、これらも意識の外だ。
普通のエネマなら自分で快感をコントロールできるが、これは違う。
ヒル魔が息を吸っていようが吐いていようが、力んでいようがいまいが、弱い電気が容赦なく前立腺を叩き、快感をつかみ出し、否応なく短時間で頂点まで引きずり上げる。そのパターンも単調なものではなく、プログラムされているようで、さまざまに強弱をつけ、速度を変え、感触も変える。だが、どの快感も強烈だ。
「ひっ、あっ! はあっ! うあっ! あっ! ああぅっ!」
ヒル魔は手足をばたつかせ、全身を痙攣させ、責め方を次々と変える電極に泣き叫びながら翻弄されるだけ。
鋭い甘美な感覚にどろどろにとろけたような下半身は、もうとても自分のものとは思えない。
快感はどんどん蓄積されて、脳を焼く。
「あーっ、あーっ、あーっ」
ガクガクと頭を上下に揺すり、頷くような動作を繰り返す。金の髪が激しくゆれた。
ムサシが側にいるはずだが、それも意識の外だ。
「ああっ! あああっ! もっ、だ……ダメっ! あっ、壊れる! こ、壊れちまうっ!」
ベッドの上でのたうちまわりながら、ヒル魔はついに懇願した。
絶頂につぐ絶頂。恐ろしいほど気持ち良いが、良すぎて何がなんだか分からない。
頭の中はずっと真っ白なまま。
ところが。
もうこれ以上、上はないだろうと思っていた絶頂に、さらに大きな衝撃が加わった。
「!! あっあっあっあ……っ、ー!!」
ヒル魔は声もなく腰を高々と突きあげ、全身を硬直させて、限界を超えたその快感に溺れるしかなかった。
それが、ムサシがコントローラを調節してパルスの強さを上げたのだと理解する前に、ヒル魔の意識は飛んでいた。

は、と気づくと、前からも後ろからも器具は抜き取られ、きれいに清められていた。
ただ、全裸なのはそのまま。薄いシーツが掛けられている。
ムサシは……と視線を滑らせる。
ヒル魔の机に座り、雑誌かなにかに視線を落としている後姿が見えた。こちらはヒル魔と違い、上下とも着衣のままだ。
馬鹿だな、あいつ。
ヒル魔は疲れ果てて、指一本動かす事はできない。
ただ、前立腺のあたりが熱を帯びたようにうずいていた。
「オイ、ムサシ」
声をかける。絶叫を続けていたせいか、かすれてうまく出ない。
ムサシはこちらを振り向くと、席を立ってベッドへと近づく。
「平気か? ヒル魔」
「平気じゃねーよ。しょっぱなから飛ばしやがって、この変態。もうテメーとする元気はねぇぞ」
ああ、とムサシは苦笑する。
「あんまりお前が色っぽいんでな。俺も止めるのを忘れてた」
「……ったく。そもそもテメーが溜まってるって話だったんだろうが」
ムサシは微笑いながら顔を寄せ、触れるだけのキスをした。
「ちゃんと抜いたよ。お前が昇天した後でな」
「馬鹿じゃねーの」
毒づくヒル魔に、ムサシは低く笑って、もう一度そっと唇を落とす。
これは、愛されているということなのか? それとも新しいオモチャができたぐらいに思っているのだろうか。
けど……まあ、俺で抜いたってことは……前者なんだろう。
一抹の不安を感じながらも、ヒル魔は自分をそう納得させた。
三度目の優しいキスに目を閉じながら。


未来設定のハズですが、今回登場した道具は一応実在のものです(笑)
ムサシさんてばホント道具好きなんだから〜。はい、というワケで、ムサシさんは変態軍医から変態船医さんになりました(拍手)
030とか046とかとは、設定がほぼ同じですが、繋がってはいませんにょ〜(殴)

Back