『好きなだけ』(後編)


「……言った」
「言ってねえ」
ムサシは頭をかいて、はあ、とわざとらしい溜息をついた。
「……らしくもねぇ。だからビデオ見ろっつってんだろ。お前、確かに言ったんだよ。どうにかなりそうで怖い、もうこれ以上イキたくない、ってな。だからやめてやったんじゃねぇか」
「……」
「イキまくったせいで、記憶がぶっとんでるんだろ。……じゃ、俺帰るからな」
涼しい顔で席を立つ男を、ヒル魔はあからさまに無視した。
遠ざかる足音。締まるドア。カチン、と施錠する音。
ヒル魔は座ったソファでみじろぎもせず、それらを聞いていた。
夢も見ない深い眠りから覚めた時、ヒル魔の身体はきれいになっていた。
そういえば、ムサシに抱きかかえられるようにして、シャワーを浴びせられた記憶も、かすかになくはない。
覚醒しきらない頭をはっきりさせようと、コーヒーを流し込んだ。
それでも、ヒル魔の身体はまだだるさを訴えている。
ほぼ一晩中、ほんのわずかな休憩を挟んで続けられた責め苦。
そう。あれはまさしく、快楽という名の責め苦。

ヒル魔はのろのろと身体を起こし、一本のテープを手に取る。
それをセットしながら、この設備はこんなことの為にあるんじゃねぇ、とぼやく。
再生ボタンを押す。途端、
『やっ、あ……っ』
いきなり大音量で流れてきた己の嬌声に飛び上がった。
いつもの、アメフトの試合を再生している時の音量のままだったせいだ。
リモコンの、音量小ボタンを連打する。
『あ、あっ、早く……っ』
耳をふさぎたくなる様な声が、徐々に小さくなった
パッと見、光源が足りてない。
画面の中には、間接照明だけの室内、ベッドの上でもつれ合う裸体が二つ。
勿論、ひとつはムサシで、もうひとつが自分だ。
そもそも、こんなに追い詰められた状態でなければ、己の痴態をビデオに撮らせることなど、ヒル魔が承諾するはずはない。
よくも考え抜いたタイミングだ。
ヒル魔は険しく眉間に皺を寄せる。
早送りしてしまおうとリモコンを構え、少し逡巡した後、それを降ろした。
客観的にどうされているのか、というのに興味がないわけではなかったから。
きっかけはどうあれ、とりあえず通して見てみるか。
そんな気になった。

画面の中のムサシが、ちらりとビデオのほうを見やる。
動作しているのを確認したようだ。
『……ヒル魔。いっぺん出すか』
ぐい、とムサシが横たわるヒル魔の腰の下に手を入れ、持ち上げる。
そして、自分の正座したふとももから両足を垂らす格好で、またがせるように、腰をのせた。
その拍子にヒル魔自身が跳ね、ぱちん、と腹にあたる。
『ひ、……あっ!』
ヒル魔の身体が反り返り、硬直する。
ほんのわずかな刺激でも、イってしまいそうなのだ。
それを見てとったのだろう、ムサシが手を添えて、上下にしごいた。
『や、イク……あっ、あっ、あっ、イク……っ』
ヒル魔のものの先端から、白濁した液体が勢い良く飛び出した。
ヒル魔の胸や、のけぞった顎のあたりまで大量に飛び散る。
軽く数回こすられただけというのに、それはなかなかおさまらなかった。
『あ……っ、あ……っ』
二度、三度、と間歇的に吹き出すのを、ムサシが緩慢な手つきで手伝っている。
『……さすがにすげぇ溜まってんな』
ムサシが感心した様子で呟いた。
『だ……から、自分では、してねぇって……』
ヒル魔が荒く息をつきながら言うのへ、わかったわかった、と返す。
『確かに、お前はちゃんと言いつけを守ってたな。まだ珍しく元気だしよ』
笑いを含んだ声。
まだ固いヒル魔自身を、上下に振る。
飛沫が飛んだ。
胸に飛んだ液体を、ムサシはヒル魔の胸の飾りへ塗りつける。
既に十分とがり切った突起を、爪で軽くこすった。
『んっ、ん……っ』
かすかなヒル魔の喘ぎ声。
『さて。んじゃ、お前ちゃんとカウントしとけよ。今のが1回目だからな』
言うなり、ムサシは背中を丸めて、ヒル魔の中心に舌を這わせた。
『あ! ちょ……まだ、早い……っ』
ヒル魔が身体を起こして止めようとするのを邪険に振り払い、ムサシはヒル魔自身を銜え込む。
『ん〜……つるけてれにかいぐらいいえるらろ』
銜えたまましゃべられて、ヒル魔は身悶える。
『あっ、な、に……言ってんだか、わ、かんねぇよ……っ』
途端、激しいピストンが始まった。
『ああっ、あああっ、あ、あっ!』
いきなりの激しい快感。起こしかけていた半身を、ベッドに叩きつける。
すすり上げる水音が響く。
『ああっ、イクっ、出るっ』
早い。だが、堪えきれない。
『う……イ……クっ、あっ、あっ、イク、イクイク……っ!』
びくん、とヒル魔の身体が再びこわばった。
『あ……ああ……』
びく、びく、と身体を震わせて、ヒル魔は呟く。
ムサシはヒル魔を深く銜えたままだ。
ムサシがゆっくりと身体を起こし、口に手をやった。
掌に、ヒル魔の放ったものを受け止めている。
『ふう……。2回目でもかなり濃いな』
開いている手で、唇をぬぐう。
『だが……まだまだ、これからだ』
ヒル魔の腰をさらに高く抱えると、今度はヒル魔の後ろの方へ、舌を伸ばした。
『ひあ……』
弛緩していた体に、力が入る。
『ほら、お前も協力しろよ。足、ふんばってろ』
ムサシの目の前で大きく股を開いた状態だ。
だが、次々と与えられる快感に、ヒル魔の羞恥心はすでに麻痺しつつある。
後ろの入り口のあたりを舌先で弄ばれているうちに、ヒル魔のものが再び芯を持ち始める。
ヒル魔は、喘ぐようにせわしない息をついて、悶える。
やがて、がくん、と足腰が崩れた。もう、下半身に力が入らないのだ。
ムサシは片腕だけでヒル魔をうつぶせにすると、腰を上げさせる。上半身は、だらしなくベッドに伸びている。細い腰が、きれいなカーブを描いていた。
『ん……こんだけ開いてれば、大丈夫だろ』
掌に受けたものを流し込むようにしながら、指を差し入れた。
『あ……は……』
ヒル魔の頭がのけぞる。
やがて、ムサシの指がポイントを捉えた。
『ひ、あ……っ、ああっ』
快感の源をこねるようにこすられて、ヒル魔の身体が跳ねる。
『おお……締まる締まる』
半ば本気で感心したような、ムサシの声。
そののんびりした調子とは裏腹に、激しく指を動かし始めた。
『ん、あっ いっ! いいっ!』
既に十分開発された身体は、すぐに快感を訴えてきた。
後ろに入りきらなかった液体が、細い太ももを伝い落ちる。
シーツをわしづかみ、また離し、まごうかたなき嬌声をあげる。
そうしながら、ムサシはヒル魔の前に手を伸ばし、先端の部分を指先で刺激した。
すぐさま反応がある。
『あっ、駄目……っ! あ、ああっ』
このあたりから、ヒル魔の記憶はおぼろになっていく。
前後を刺激されているはずだが、覚えているのはもっぱら後ろの快感だ。
直後、ヒル魔の身体が硬直した。
『あ……イ……っ』
『イったか? ヒル魔……』
どうやら、今度は後ろだけで達したようだ。
『ん〜、一応3回目か……。汁は出てるんだがなぁ……』
はあっ、とヒル魔が身体の強張りと解くと同時に、ムサシはまた愛撫を再開した。
両手と、時折は舌も使って、ヒル魔をさらに追い詰める。
『あ、は、ああっ、ああっ……イっ、イキたい、イキたい、ムサシぃ……!』
『ああ……イケよ』
ムサシの両手がなおも動きを増す。
やがてひきつるような声をあげて、ヒル魔の身体が硬直した。
先端から、ぼたぼたと滴り落ちるものがある。
『4回目……。さすがに勢いはねぇな』
ムサシが、低く呟いた。
射精中だというのに、ヒル魔の身体を仰向けに横たわらせる。差し込んだ指もそのままで。
ムサシの手が、絞り上げるような動きをし、ヒル魔は息をつく間もなく、射精を長引かされ、喘ぎ声を上げさせられる。
『あ……あ……』
ひくつく身体。腹や胸から、液体が滴る。
全身汁まみれといった態だ。
ぐたりと弛緩したヒル魔にかまわず、ムサシは後ろに差し込んだ指をまた、動かす。
『あっ、あっ、また……っ』
よほど的確に刺激されているのだろう、ヒル魔はすぐさま快感を訴え始める。
貪欲に腰が蠢く。
『続けてイケるか……?』
ムサシが、前にも手を添える。
ムサシの腕の動きは激しくない。だが、やがてヒル魔の腰が跳ね上がった。
『あっ? ああっ? なんだ、コレ……っ』
ガクガクと脚が震え出す。ビデオでもはっきりと分かるほどに。
それにつられて、上半身までもが、揺れる。
なんとなく思い出す。
それまで下半身に集中していた、蕩けるような愉悦と、時折背筋を貫く感覚。
それが、なんの前触れもなくいきなりボルテージを上げ、ガン、と鋭く脳を突き上げ、全身を駆け巡ったのだ。
たまったものではなかった。未知の、強すぎる快感に、ヒル魔はパニック寸前になった。
甘美さのかけらもない暴力的なまでの刺激。
ムサシが、腕でヒル魔の腰を押さえ込み、さらに体重をかけた。
そうしなければ、ヒル魔の身もだえの激しさにポイントを外されてしまうからだ。
ひっ、と悲鳴のような声。
『ああっ、ダメ、ダメだっ……あっ、あっ、ダメっ、や……っ、やめ……っ』
止めさせようとしているのか、ヒル魔の手が宙をさまよう。
だが、ほどなくシーツや枕をすがるようにつかむ。
『あ……っ。イヤだっ! イヤっ、イヤあ……っ!』
意味のある言葉を紡げたのは、そこまで。続いたのは、咆哮のような叫び。
『あーっ、あーっ、あーっ』
のけぞったまま、ヒル魔は激しく頭を左右に振り続ける。
びくびくと跳ね回る下半身が、まるで別の生き物のようだ。
その時。
シャー、という異質な水音が響いた。
ムサシが、一瞬ぎくりと動作を止めたのがわかる。
シーツに飛び散ったらしい、パタパタという音も、かすかにした。
失禁だと、ムサシは思っただろう。ヒル魔も思った。
だが、ムサシは液体がかかったらしい掌を自らの鼻先へ持っていくと、かすかに首をかしげた。
『まさか……潮……? を、吹いたのか……?』
ヒル魔は、ただ小さく身体を震わせているだけだ。
『もう少し、責めてみるか……』
低くごちると、ムサシは手を小さく動かし始めた。
ムサシの最小限の動きにも関わらず、ヒル魔は叫び出す。
『っ! やっ……壊れちまうっ! あああっ、あああああっ!』
雄たけびのような声が絶え間なく漏れる。
『おっ、また出たぞ』
ムサシが渾身の力で押さえつけているのに、ヒル魔の腰がベッドから浮く。
『い、やあああ……っ! もっ、やだ! やだやだや……っ!』
ひゅう、と喉の鳴る音。そしてまた、絶叫。
ビデオの中、ヒル魔は拷問を受けているかのように、悶絶していた。

ヒル魔は、呆然とビデオを見ていた。
こんなに騒いでいたのか。
もうこのあたりは、自分がどう反応したのか全く記憶にない。
頭はとうに真っ白。強烈すぎる刺激、限界を超えて嵩を増し続ける快感に、飛びそうになる意識を、恐怖心だけが留めていたのを覚えている。
目は見開いていたが何も見えておらず、全身が、与えられる感覚に、どろどろに溶けたようになっていた。
腰のあたりから、つま先までは、もう自分のものではないようで。ただただ、快感に反応して大きく痙攣するだけ。

『も……っ、やだ! 怖い! ムサシ、ムサシぃ……!』
ビデオから泣き声が聞こえた。
上半身をのたうちまわらせながら、訴えているのは、確かに自分だ。
ムサシの手が止まった。
ヒル魔の本気を悟ったのだろう。
ふ、とヒル魔の顔を覗き込む動作。
『……涙とよだれでぐちゃぐちゃだな』
苦笑気味の声。
誰のせいだと思っているのか。
ムサシはまた身体をベッドの下へずらすと、ヒル魔自身を持ち上げて、今度は全体を上下にしごきはじめた。
『あっ、あっ、ん……っ』
慣れた快感に、今度は甘い鼻声を漏らし始める。
『あっ、んっ! ああっ! いいっ、いいっ! スゴいぃ……っ!』
びく、びく、と腰が動き、
『ああ……っ!』
どくん、と音がしそうな勢いで、ヒル魔の前から大量に、そしてかなり長い間、先刻とは違う種類の液体が吐き出された。
『5回目、か……?』
ムサシが手を動かしながら、やや自信なさげに、そう呟いた。

ビデオはそこで終わっている。
おそらくヒル魔はここで疲れ果てて、眠り込んでしまったのだろう。
「……て、ことは」
ムサシは自分で処理をしたのだろう。
「……っ。馬鹿だ、馬鹿!!」
吐き捨てたヒル魔の声が、ひとりきりの室内にこだました。


鬼畜でもなくなってますな、ムサシさん。無駄に長くてすみません。毎度のことか、それは(泣)
え〜と。何がしたかったかというと、潮吹きです。
汁じゃないじゃん……。

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