『グリーンパラダイス』
ムサシは先に立って歩いていたが、ふいに背中を叩かれる。振り返ると、ヒル魔はじっと何かに耳をすませている様子だった。
ムサシも意識を耳に集中する、かすかに目当ての音。
「滝があるな」
ぼそりとヒル魔が言った。
「どっちからだ?」
ムサシにはかすかすぎて定かではないが、ヒル魔は、あっちだ、と右前方を指差した。
言われるまま、歩を進める。滝音は段々と大きくなり、ムサシもヒル魔の指示を仰がなくても方向が分かるようになった。
やがて、目の前がひらけて滝壷が現れた。
滝はひとつではなかった。広い岩肌に、いく筋も流れ落ちている。
「この水は大丈夫なんだろうな」
細かい飛沫がふたりを濡らしている。ヒル魔は手元の機械に目を走らせ、問題ねえ、と応えた。
「てか、地球じゃもうめったにお目にかかれないぐらい良質の水だな」
「持って帰って売るか」
「ランニングコストによる」
冗談のつもりだったが、シビアな答えに、ムサシは苦笑する。
安全な水とわかって、ヒル魔はすたすたと水辺による。
念のため、ムサシはその後ろに立って、銃に手をかけた。
ヒル魔は片ひざをついて水中を覗き込んでいたが、大丈夫と判断したのだろう、つま先を水中に差し入れる。
「オイ、ヒル魔……」
「大丈夫だ、水温は低くない」
着衣をすべて脱ぎ捨てると、するりと水中へ体を滑らせた。
水深は2,3メートルというところだったが、透明度は抜群で、湖底で藻がゆれているのがよく見える。
その中を、ヒル魔の白い裸体が滑っていく。
「……?」
滝の方へ目をやり、視線を湖へ戻した時、ムサシは違和感をおぼえた。
さっきと違う?
ヒル魔は相変わらず水の中だ。
「オイ! ヒル魔!」
ムサシの緊張した呼び声に、ヒル魔が、どーした、といいながら抜き手を切って戻ってくる。
「なんかおかしい」
そういったとき、違和感の正体に気づいた。
そうだ。湖底の藻が……。
「藻が……でかくなってる!」
そういい終えた瞬間、岸に手をかけてあがろうとしていたヒル魔の体が水中に消えた。
「ヒル魔!」
ヒル魔が何かにひっぱられているのが水を通して見えた。きゃしゃな足首に、蔓のようなものが巻きついている。
水中へ銃を向けたムサシだったが、無理だと悟る。
ナイフを抜き取ると、ヒル魔のほうへ投げた。
ヒル魔は光を受けながら沈んできたそれにすぐ気づく。腕をのばして掴むと、脚に絡み付いている蔓を切った。
ヒル魔の頭が水面に浮かぶ。だが、一瞬後には、再び背後から延びてきた蔓に絡めとられた。
「くそ……っ」
それに切りつけながらヒル魔は毒づくと、今にも飛び込もうとしているムサシに向かって叫ぶ。
「テメーは来るな! なんかつかまれるもん探して来い!」
ムサシはわかった、と叫び返し、左右を見回す。
ロープのかわりになりそうな太い蔓草はあちこちにたれさがっていた。
それを適当な長さで切り取り、先端に輪を作ると、投げ縄の要領で湖面へ投げる。
ヒル魔の手がそれを掴む前に、その体はいきおいよく湖の中央へひきずられていった。
「ヒル魔!」
水しぶきを追って飛び込もうとするが、来るな、という声が飛ぶ。続いて激しく咳き込む声。
蔓はヒル魔を水中に沈めることはせず、水面からわずか下を移動させている。
窒息させないように、という配慮のように見える。
だが、何故?
とりあえず湖岸を、ヒル魔を追って走る。
滝壷の下まで来た時、ムサシは目を見張った。
滝の上の方から、蔓草が何本もおりてくる。
今ヒル魔の体に絡み付いている藻とは比較にならない太さだ。
「ヒル魔っ、上!」
ムサシは銃を構えなおすと、おりてくる蔓草に向かって連射する。
「くそっ、ダメだ、数が多すぎる」
ちぎれてバラバラと数本落下するが、それをはるかに上回る本数だった。
ヒル魔はひきずられながらも蔓草を睨みつけていたが、その目をムサシに転じると
「船から武器もってこい。火力のあるヤツだ」と叫んだ。
ムサシはわずかな逡巡の後、わかった、と叫び返し、きびすを返した。
ヒル魔はそれを視線で追ったが、次の瞬間、体が上方へひっぱられた。
崖から降りてきた蔓も、ヒル魔の身体にまきついていた。
水中から空中へ。
滝の飛沫を浴びながら、ちょうど滝の真ん中あたりで宙吊りにされる。
呼吸は困難ではなく、手足は幾重にも戒められているが骨が折れるほどではない。
ナイフを握った手首はがっちりと固定されているが、わずかでもゆるんだら無論切りつけるつもりである。
だが、植物たちはそのスキを見せなかった。
くそ……一体どうなってんだ、この星の草っ葉は……!
内心でののしりながらも、次になにが起こるか分かるような気がした。命を奪われる気配は無い。となれば、あとはやはり……。
案の定、下腹部に蔓が集まってくる。
ヒル魔はかすかに首を左右に振り、神経を散らして、与えられる感覚をやりすごそうとする。
だが、やがて下半身に血が集まり始めるのを感じて、ヒル魔は唇を噛んだ。鋭い痛みとともに、金くさい血の味。
しかし確実にヒル魔は追い上げられていく。
ムサシ……早くっ。
自分たちは船からどれぐらい歩いてきただろうか。ムサシは急ぐ余り、途中でヒル魔の二の舞になったりしてはいないだろうか。
そんな思考が、鋭い快感に破られる。脚が虚空を蹴った。
蔓は樹液のようなものでヒル魔の身体を湿らせ、その上を這いまわっていた。
下からは藻が変形したような、細く、直径1ミリにも満たないようなやわらかくしなやかな蔓。そして上からは、太く、表面にわずかな凹凸のある、ややザラザラとした感触の蔓草。
首筋、耳、胸や局部など、敏感な部分をもてあそんでいるのはもっぱら細いほうで、太い蔓は上からヒル魔の身体を支えている。
ヒル魔の両足が開かれる。すぐさまその中心に蔓が伸びてくる。
細い触手に割れ目をなぞられ、すぼまりをくすぐられる。じわじわと中に入り込んでくる感触にヒル魔は思わず息をつめた。
深呼吸をしてやりすごそうとしたが、どうしても意識を後ろに持っていかれてしまう。
入り込んできた蔓が、もっとも敏感なふくらみをこする。ヒル魔はあがる息を殺し、必死で声をこらえる。
だが。
今までヒル魔の身体を支える一方だった太い蔓が、後ろにあてがわれたと思うや、細い蔓の間を抜けるようにして押し入ってきた。
「ああ……あ……」
一気に脱力した体から、どっと汗が吹き出す。
ゆっくりと差し入れられた蔓は、やはり最も敏感なあたりでピタリととまり、そこに地肌をこすりつけるようにしながら一気に引き抜かれた。
ひっ、という声を立ててヒル魔は身体を震わせる。
きつく閉じたまぶたの裏に、チカチカと光が明滅している。
肉体は簡単に裏切る。慣れた身体はそのピストン運動から快感ばかりを伝えてきた。だが、がっちりと固定された状態のヒル魔はもだえることさえできない。かろうじて声は出さずにいる。
ほとばしり始めた前のものに、細い蔓が群がる。
快感にうつろになりかけたヒル魔の目が、大きく見開かれた。
「ヤメ……ヤメ、ロ……」
弱々しい呟きをもらして、ヒル魔は己の立ち上がっているものに視線を落とす。
立ち上がったものの先端に小さく開いた口から、蔓が入り込もうとしていた。
むろん、ヒル魔の制止など聞こうはずもなく。
後ろに差し入れられた蔓は、そのままだが動きを止めている。
ずず、とわずかな穴にねじ込まれる。経験したことのない感覚に、ヒル魔は総毛立った。
本来入ることの無い場所に受け入れることは、後ろならともかく、前はない。カテーテルさえ入れたことは無い。
だが、差し入れられた蔓はカテーテルと同じ役目を果たし、わずかばかりたまっていた液体が垂れ流される。
さしものヒル魔も、まったく意志の及ばない生理現象に頬を染めた。
だが、それも束の間。入り込んできた蔓がある部分を追加した瞬間、ヒルは低くうめいて身悶えた。
ずん、と腹の底に響くような快感。
これって……。
話には聞いたことがある。前立腺初期化、というやつだ。
だが、冷静な思考もそこまで。前と後ろ両方から、快感の源をくすぐられて、ヒル魔はのけぞった。
「あ、あっ……ああー……っ!」
こらえにこらえてきた声が、紛れもない悦楽の叫びが、四方にこだました。
蔓たちは非情なほど巧みだった。身体を傷つけることもなく、痛みを与えることもないので、快感はまったく損われない。
身も世もなく悶え、あられもなく声を上げる。
すぐさま噴煙のように突き上げる快美感に正直に身体は応え、ドッと、大量に前から愉悦の印を吹き出した。
すさまじい快感にヒル魔は悲鳴をあげた。
いった、というべきなのか。それすら判然としないほど強い快楽。射精という行為が更に神経を敏感にさせていく。一体前と後ろで何を施されているのか、もはやヒル魔自身にも定かではなかった。
中空で大きく痙攣を繰り返す。
「あっ、……ああっ、あっ、あっ、あ……っ!」
切れ切れに声をふり絞りながら、ヒル魔はひたすら嵐が止むのをまったが、入り込んだ植物のせいか、吹き出すものが止まらない。
そんな……っ。
舌を突き出し、アア、アア、とひっきりになしに哀しげに声をあげながら、ガクガクと身体をゆすりつづける。
しまりなく開いた唇の端から唾液があふれて流れるが、それも意識の他。
視線はとっくに焦点を結ばず、ただうつろに見開かれていた。
脱力しきった両足が、時折さざ波のように震える。
人間が、いきっぱなしの状態になることが可能なのか。だが、今のヒル魔がまさにその状態だった。
後ろからは太い蔓が出たり入ったりを繰り返している。ボコボコとした表面が液体で塗れて光っていた。前でうねりつづける細い蔓。よく見れば、締め付けたりくすぐったり出し入れをしたりと細かく複雑にうごめいているのが分かる。
ヒル魔に与えられた快感は高い水準で止まったまま、うねりのように続き、たまに飛沫を上げるように鋭く神経を焼く。すると、身体は忠実に反応して、声は高くなり、足先から頭までがビクリと跳ねあがった。
ああ、もう……。
これ以上感じ続けていては気が触れてしまう。
防衛本能のなせるわざか、ヒル魔の意識は混濁し、暗転した。
バッシャン、というするどい水音を耳にして、ムサシはさらに走る速度をあげた。肩には大型の火炎放射器。
しきりに心配するセナに、船から出ないようきつく言いつけ、ムサシは来た道を取って返していた。
人手は欲しかったが、おそらくいないほうがよい。先刻のウツボカズラもどきから推測すると。
とても不本意だが、そう判断する。
そして滝までたどり着いた時、ムサシは自分の判断が正しかったことを知った。
滝の中央で宙吊りにされたヒル魔。白い身体の大半が、緑の2種類の蔓に覆われている。特に下半身に集中していることから見て、何が行なわれたかは歴然だった。
ぐったりとして意識がないようだ。
ヒル魔の手にナイフがなかった。さっき耳にした音は、ヒル魔がナイフを水底へ落とした音らしい。
であれば、まだ意識を失ってからさほど経っていない。
ポケットにつっこんできた折りたたみ式のボートを広げる。
小型のエンジンをとりつけ、滝壺めがけて走り始めた。
湖水の下でうごめくものの気配を感じる。急がなくては。
ムサシは火炎放射器を構えなおすと、まずヒル魔の足元めがけて吹き付ける。
炎が届くより一瞬早く、ヒル魔の下半身に群がっていた蔓が水中に吸い込まれた。
と同時に、ヒル魔の身体が上へとひっぱりあげられる。
それと察したムサシは火炎放射器を上へ向けるなり、ろくに狙いも定めず放射した。
大半の蔓はあわてたように崖の上へ姿を消したが、一本だけ途中で焼ききれたものがあった。
焼かれた上の部分はのた打ち回るようにしながらやはり滝の向こうへ姿を消す。
落下してきたヒル魔の身体が水中へ沈む前にボートへひっぱりあげたムサシは、なぜ一本だけ逃げ遅れたか理由を悟った。
焼かれた残りの部分は、ヒル魔の中に深く入り込んでいた。
まだピクピクと動くそれを乱暴に引きずり出し、空中へ投げて炎を吹き付ける。わずかな灰になって、湖面へ降り注いだ。
「……畜生―!」
ムサシの咆哮に恐れをなしたのか、ボートを岸につけるまで反撃はなかった。
湖から少し行った場所にある、わずかに拓けた場所にシートを敷いてヒル魔を横たえる。
散々水にぬれたにもかかわらず白い身体はほてっていた。
機械を使って、身体には異常がないことを確かめてある。但し、非常な興奮状態にある、と機械は告げていた。それはいまだ半分立ち上がったまま液を滴らせている器官を見ても明らかだったが。そして、ひどく消耗しているとも。
上気した頬を叩くと、ヒル魔は眉根を寄せて身じろぎした。
うすくまぶたを開いた瞳がムサシをとらえる。
次の瞬間、ムサシは唇を塞がれていた。
驚いて一瞬身体をこわばらせたが、ヒル魔の気の済むようにさせてやる。
ムサシの首筋にしがみつき、短く声をあげながら、ヒル魔は舌を差し入れ、ムサシのそれに絡めた。角度を変えながら唇を吸い、舐めあげる。濃厚な口付けにムサシ自身も反応を示し始める。
やがて荒く息をつきながら唇を離したヒル魔だが、瘧のかかったように身体を震わせていた。
言葉もなく、哀願する視線。
ヒル魔の体力は既に限界を超えているはず。だが。
「大丈夫だから。今、鎮めてやるから……」
切れ切れにムサシはやっとの思いでそう応えると、ヒル魔の背中を抱き寄せ、シートの上に横たえた。
ヒル魔はムサシの愛撫もそこそこに、早くうずめるようにうながす。
細い足を肩にかけさせ、ムサシが奥深くえぐると、普段めったにあげないような声で哭き、嬌態を示した
律動を始めると、それにあわせて腰を押し付ける。湿った肉のぶつかりあう音と、あふれた液がかきまぜられる濁った水音があたりに響いた。
激しい、だが静かな交わり。荒い息遣いと、ヒル魔が時折堪えかねてもらす声以外に言葉はなかった。
ヒル魔の唇が、前も、と動く。
すでに後ろだけでもいけるはずの身体。
だが、ムサシは前で頼りなくゆれているものを掌で包み込んで、軽く上下にさすった。
ほっとしたようにヒル魔が微笑う。
ヒル魔は、己の身体の脇にあるムサシの二本の腕に、腕と指を絡めて、喉で笛がたてるような声を絞り、やがて達した。
のけぞった首の辺りに、白い飛沫が散った。
ふっ、とヒル魔の身体から力が抜ける。
気絶したのだと知ってムサシはぎょっとしたが、規則正しく上下する胸を見て、吐息をついた。
だが、その身体がまた固まる。
閉じたヒル魔の眦から、滑り落ちたもの。指先でぬぐい、口付ける。
たとえこれが安堵の涙だったとしても。
「すまん」
ムサシはヒル魔の身体を清めてやりながら、聞こえるはずも無い謝罪を、かみしめた歯の間から呟いた。
目を覚ましたヒル魔は、身体を起こしながら視線を左右にさまよわせた。
すぐにムサシが近づいてくる。
きちんと衣服を身に着けていたが、この草原の上で抱き合ったことは忘れていない。
ヒル魔が軽くあごを上げると、ムサシは照れた顔をしながら触れるだけのキスをした。
手を伸ばすと、背中にたくましい腕が回って、抱きしめられた。
すう、とヒル魔は深呼吸をする。
もう、いつもの自分だった。
「オイ、糞ジジイ」
「なんだ」
「船に帰るぞ。もうこの星はいいな」
「ああ」
こりごりだ、というニュアンスが感じられて、ヒル魔はかすかに口の端を上げる。こりごりなのは俺のほうだ、と思う。
だが、頭が回転を始めたヒル魔は、すぐにその気分を払拭する。
ひとつの星の名前をあげて、これからそこへ向かう、と宣言する。
する、と身体を離すとムサシが不思議そうな顔をしている。当初立ち寄る予定のまったく無かった星だからだろう。
「そこで、精密検査を受ける。別に不調は感じないが、念のためだ」
なるほど、そうだな、と頷く。得心がいったようだ。
「テメーも受けるんだ」
「俺も?」
「……俺を抱いてる」
ムサシは黙って頷いた。
ヒル魔はそんなムサシから視線をそらしながら、すまん、と吐息混じりに呟いた。
背中を向けると、強く腕をつかまれた。
ぐるり、と向きなおされる。至近距離にムサシのこわばった顔。
「ム……」
最後まで言えなかった。唇を塞がれていた。
「ん……ふ……っ」
荒々しく口内をかき回される。
「何度でも抱いてやる。今すぐにでも、だ」
ムサシは唇を離すと、低く、怒ったように言った。
「……」
ヒル魔が黙っていると、瞳を覗き込んでくる。
それへ、ニヤリと笑いかける。
「今すぐはダメだな。今晩にしろ」
ムサシは一瞬大きく目を見開き、呆れたような、安心したような顔で笑った。
誰に、何に犯されても傷ついたりはしない。
この腕がある限り。
長い。なんでこんなに長くなってしまったのか。ヒル魔さんがキャラに似合わずうかつすぎるケド、勘弁してやってください。(しかしヒル魔さんの人権は何処へ…;)
一度書いてみたかった前立腺初期化。しかし実際はかなりあぶないものと思われるので、こんな設定でもなければ書けないだろう、と混ぜてみました。なんか放尿プレイとかも混ざってるけど、気にしないで(爆)
え〜。エロが主題なので、この星はなにゆえこんななのか、とか、この後の精密検査でどんどんシリアスな状況になるとかは、アリマセン。悪しからず。元ネタはたぶん筒井康隆のSFなんだけど、似ても似つかぬものになっていると思われ。てか、ネタにしといてアレですが、ろくすっぽ内容覚えてねーし。