『重箱』
ムサシが転がしてきた4トントラックを見て、さすがのヒル魔も一瞬黙った。車体の側面には楷書体で「武蔵工務店」とある。
「……おい、糞ジジイ。テメー、いつ大型一種とった?」
「ああ……。あ〜、4ヶ月ぐらい前かな」
ツッコんでくれるかと思いきや。
「ああ、そうかよ」
さらり、と流された。ヒル魔はそのまま助手席側に回る。
大型一種が取得できるのは20歳以上だが、もちろんヒル魔もそんなことは知っているだろう。
ムサシが運転席に座って隣を見ると、もうパソコンを広げている。そうしながら、後ろには何が載ってるんだ、と訊いてきた。
「ウチにあったガラクタだ。カラで走ってるよりは目立たねぇだろうと思ってな」
そう応えれば、小さく頷いて、それ以上の言葉はなかった。
ヒル魔はそのまま画面に没頭しはじめたので、ムサシはトラックを発車させる。
行き先は富士の自衛隊演習所。どんな用事があるのか、誰に会うつもりなのか、一切知らされていなかったが、聞くつもりもなかった。
学校帰りに待ち合わせて、向こうで一泊の予定。それになぜムサシが付き合うことになったか、ムサシ自身にも成り行きははっきりとわかっていない。気がついたら「ああ」と言わされていたのだ。もっとも、それに今更異議をとなえるつもりもない。
会社のトラックを持ち出すのはさして手間取らなかった。ムサシがこうしてトラックを転がすのは、仕事でも私用でも、今に始まったことではないからだ。
近くのインターチェンジから高速に乗る。
都心から抜けるのに少々時間がかかったせいで、談ゴウ坂サービスエリアに着いたときにはすでに夜もけっこう遅い時間になっていた。
建物内のレストランで適当に夕食を済ませる。ヒル魔もムサシも食べ物にはうるさくないので、こういうときは面倒がなくていい。
平日の夜遅くとあって、人が多いというわけではないが、ガテン系のムサシと、制服姿のヒル魔の組み合わせは妙に人目を引いた。
いったいどういう関係なんだろう、と誰もが不思議に思うところなのだろう。こちらをうかがう視線をいくつも感じる。
ヒル魔は気づいているだろうが、慣れているのか気にするそぶりはない。ムサシとても、何を今更、な事ではあるのだが。
気になるのは、独りの男たちの視線。とりわけ長距離トラックの運転手と思しき男が、座っているテーブルからチラチラとこちらに……正確にはヒル魔に、寄越す視線が気に入らなかった。男のテーブルの上にアルコール類はないようだが、目つきが酔漢を思わせる。
アルコールでなければ、もっとタチの悪いものだろう。テーブルに酒類がないのは、レストランに注文を断られでもしたのかもしれない。
しかしそんなことはおくびにも出さず晩飯を平らげ、レストランを後する。当然のように支払をムサシにまかせてさっさと出て行ったヒル魔は、ドアを抜けたところで自販機からペットボトルを取り出していた。
「なあ、ヒル魔」
トラックへ戻りながら、ムサシは口を開く。
「あ?」
目の前にある金髪は振り返らない。
「ホテルのチェックイン、何時でもいいんだろ?」
「ああ。遅くなるとは言ってある……」
そう応えて、やっとヒル魔は振り返った。ムサシの意図をはかりかねてか、わずかに眉根を寄せている。
ムサシはそれにはわざと気づかないそぶりで運転席へ戻った。
ヒル魔も痩身を助手席に落ち着かせる。
ムサシは、ペットボトルを取り出した細い手首を掴んで引き寄せた。
ヒル魔はおとなしくそのままムサシの口付けを受け止める。
部活の後、シャワーでも浴びてきたのだろう、ヒル魔の身体から汗の匂いはなかった。
ねっとりとした濃厚なキスの後、ムサシは「しようぜ」と囁いた。
ヒル魔は軽く片方の眉を上げる。
「ジジイのくせにさかってんじゃねーよ。ホテルまで我慢しろ」
にべもなくはねつけられたが、元より聞くつもりはなかった。
口唇での愛撫を首筋に移しながら言葉を繋ぐ。
「大丈夫だ。この車高なら下からは見えねぇし。両脇の窓はカーテン閉まるようになってるし。声も漏れねぇ」
「……そんなに溜まってんのか? テメー」
からかい気味に応えたヒル魔の言葉をOKととらえ、ムサシは行為を積極的なものにした。
「あ……ムサシ……待てよ。せめてカーテン……」
ちゅう、と音を立てて鎖骨のあたりを吸い上げると、首をすくめながらそう言ってくる。
ヒル魔が本気で嫌がることはするつもりはないので、ムサシは腕を伸ばしてカーテンを引いた。
元々暗い車内がさらに暗くなる。大型車の駐車スペースは建物から一番離れたところだ。街灯がところどころにあるが、すべてを照らしているわけではない。
シートに押し倒し、シャツのボタンを外していく。
胸の飾りを指で押し転がすようにすると、かすかな声が聞こえた。左のそれを吸い上げ、舌先を先端で泳がせる。途端、んん……、と鼻に抜けるような喘ぎ声があがる。それを耳に心地よく聞きながら、ムサシは執拗にその小さな突起をなぶる。
トラックの席は3人掛なので普通車より余裕があるとはいえ、所詮は車内である。
ハンドルや傾いたシートに苦戦しながら、腕だけ伸ばしてヒル魔の制服のズボンを抜き取る。
ベッドとは違う肌触りがイヤなのか、ヒル魔はしばらく居心地悪げにもぞもぞと身体を動かしていたが、やがてあきらめたのか、細い腕をムサシの首に回してきた。
すっかり立ち上がって濡れ始めているものを愛撫すると、気持ちよさそうに声を上げる。
前から滴るものを指先ですくい、後ろの庭を充分に湿らせていく。
ムサシは身体を起こすと、自分も作業服のズボンを下ろしてコンドームをつけた。
ヒル魔の両足を肩に担ぎ上げてすぼまりにあてがい、身体を進める。
少々期間があいたせいか、ほぐしたにもかかわらずそこはずいぶん狭かった。
ずず、とヒル魔の身体が後ろにさがり、ドアにぶつかって止まる。
ヒル魔自身も苦しいのか、深呼吸を繰り返している。顎を上げた拍子に、コツン、と金髪の後頭部がカーテンの布地ごしに窓を叩いた。
ムサシはゆっくりと、コンドームの助けも借りて、それでもなんとか己を全てうずめることに成功する。
きちんと入ったと知って、ヒル魔が安堵の息をつく。期せずして同時にムサシもため息をつく。
つながったままの状態だというのにそれがなにやらおかしくて、顔を見合わせてひっそりと笑いあった。
「テメーがこんなとこでヤルなんて言い出すからだ。この糞絶倫ヤロー」
そう憎まれ口を叩かれるが、口元には笑みがある。
ムサシは応える代わりに、可愛げのない言葉を吐く唇を、唇で塞いだ。
ゆっくりと律動を開始する。
抜き差し、というわけにはいかなかったが、ちょうどいい具合にムサシのモノが当たるのか、ヒル魔はビクリと身体を震わせ、喉の奥でくぐもった叫びをあげた。
緩慢に、変わりの無いペースで身体を揺らし続ける。
焦らされている、と感じたのか、ヒル魔がイヤイヤをするように首を左右に振る。
「ムサシ……もっと……、も……速く……っ」
ムサシはわざと動きを止め、ヒル魔の目がこちらを向くのを確認して唇を歪める。
「トラックってのは車高がある分、横の運動には弱いんだ」
思い切りピストン運動などしたら、車体がギシギシゆれるに決まっていた。そうなれば、いくら暗くて、ひとけの無いサービスエリアとはいえ、注目を浴びることは必至である。
ヒル魔は目を見開き、次に頬を染めて、くそっ、と呟いた。
それを見届け、ムサシは行為を再開する。
淡々と刺激されることに焦れて、ヒル魔が自分の前を慰めようと手を伸ばす。
その瞬間、ムサシは大きく腰を動かした。
「ああっ」
いきなりのことに、ヒル魔が声をあげて悶える。
一瞬だけだったが、今の動きのせいでトラックがぐらりと揺れ、ヒル魔は息を呑んでムサシの腕をわしづかんだ。
「……」
ヒル魔が睨みつけてくる。が、暗いせいでいつもの眼力も半減している。
ムサシは内心でそれをありがたいと思いながら、喉の奥で微笑った。
「俺のことも考えてくれよ、ヒル魔」
ヒル魔はしばらく黙っていたが、「後で俺が口でしてやる」と呻く。
だから、さっさと終わらせろ、ということだが。
するわけはなかった。
口でしてやるというその言葉を真に受けるほど、ヒル魔との付き合いは浅くも短くも無い。
「そうかそうか」
軽くいなして、再びゆっくりと律動を始める。
ヒル魔は舌打ちしたが、快感は快感なのだろう、食いしばった歯の間からすすり泣くような細い声をあげはじめる。
と、ふいに近くにエンジン音。
とっさにムサシはヒル魔の脚を下ろして自分の身体の下へ引きずり込む。自身もその上へ倒れこむように伏せた。
トラックの正面を、大型車が走っていく気配。
フロントガラスのこちら側を覗き込まれなきゃいいが、と思いながら、息をつめる。
前を通る車はそのままスピードを落とすこともなく走り去った。
ヒル魔は完全に身体をシートへ横たえ、折った右足を背もたれにあずけ、左足は座席の下へ垂らした格好になっている。
より内部のムサシを感じるのか、その格好のまま、小さく喘いでいる。
度々中断された上、思ったとおりのペースで快楽を追うこともできず、はからずも焦らしプレイのようになっている。そのせいか、ヒル魔はいつもより感じているようだった。
下腹につきそうなほど急な角度で立ち上がっているものが、それを証明している。暗闇で目をこらせば、それはかすかに震えているようだった。
「っん、は……、ムサ、シ……キツい……。潰れそ……」
かすれた声でささやかれる。
「?」
ムサシは上半身を起こしてシートに手をついており、けしてヒル魔が息苦しさを感じるような体勢ではないはずだ。
すると、きゅう、と内部が締め付けてきた。
「つっ……! ヒル魔、締め過ぎだ」
ムサシは手を伸ばしてヒル魔の前をさすってやる。
「あ、あん」
甘い声で泣きながら、ヒル魔は首を横に振る。
はあはあとせわしなく息をつきながら、中が、と口を開いた。
「中?」
「前立……腺……潰れ、そ……」
思わず、は? と聞き返すところだった。
「っ、ずっと……当たってる、か、ら……。ムサシの……、カサ、のトコ……っ」
ほとんど前後の運動をしていないため、ずっと押し付けられた状態になっているのだろう。
その上、興奮の為か焦らされたせいか、ヒル魔自身がいつもより大きくなっているので、前立腺もより膨らんでいる状態なのだ。
勃起すればするだけ、噴き出すものにそなえて前立腺は大きくなる。
両者があいまって、もともと狭隘なヒル魔のそこは、いっぱいいっぱいになっているようだ。
前立腺がはたして潰れるか否かはムサシも知らない。だが、そう訴える声に、ヒル魔らしからぬかすかなおびえが混ざっている。
潰れないにしても無茶はさせたくない。
ず、と身体をヒル魔に押し付ける。
最も太い部分が外れるので、これで少しはマシになるだろう。
そうしながら、ムサシはヒル魔の前のものに手をそえてしごきあげた。
「あっ、あっ!」
とたん、ヒル魔が身体をのけぞらせて喘ぎ始める。
それとともに、内部が伸縮を始めた。
思わず動いてしまいそうになる腰に力をいれる。
激しく痙攣し始めたヒル魔の身体をおさえつけ、手の動きを速めた。
ヒル魔の内部にうねりが生じ始める。
「ああっ、ああっ……!」
「イイか? ヒル魔……」
それは、きゅう、と絞り上げてくるソコが何より如実に語っていたが。
ヒル魔は、嬌声を上げながら小さく頷く。
「イ……イイ……っ、も、駄目。イキそ……っ。一緒に……」
ムサシは、ああ、と低く応えてわずかに腰の動きも速くする。
「あっ、んっ……! ホントに、もう……ああっ、もう……!」
ガクガクと大きく痙攣する細い脚が、ムサシの腰を締め付ける。
はあはあとせわしなく息をつきながらヒル魔は舌を突き出す。
ムサシはそれへ己の舌を絡めた。
無我夢中で互いの口内をむさぼる。
ふ、と目を開ければ、至近距離にヒル魔の瞳。
快感に濡れて、情欲に輝き、ムサシを……彼の中の雄を誘う。
その眼を見た途端、電気のように射精感が脊椎を走りぬけた。
「! ……うぅ……っ」
ムサシは低くうめきながら、ビクっ、と身体を震わせる。
我慢する間もなく、勢いよく吹き出した。仕方なく、そのまま2、3度大きく腰を突き上げる。
「ああぁ……っ!」
ヒル魔も高く哭いて、前から白いものを吐き出した。
ペットボトルの水で湿らせたタオルで互いの身体を清めた後、ふたりはしばらく無言でシートに沈み込んでいた。気疲れしたのと、行為後の余韻のためである。
やがてポツリとヒル魔が言った。
「こんなのはこれきりだぞ」
「ああ、そうだな。わかった」
さすがに俺も疲れた。
という言葉は、飲み込んでおいた。そんなことを言えば、テメーが仕掛けてきたくせに、と激怒するに決まっている。
それにしても、先にイッてしまわなくて良かった。危ないところだったが。
そんなことになろうものなら、さんざんバカにされ、嫌味を言われ、しばらくはお預けを喰らうだろう……。
ムサシがつらつらと考えていると、また不意にヒル魔の声がした。
「……ま、ヤキモチ焼かれるのは悪い気しねぇけどな」
思わずヒル魔の顔を見れば、にやにやと笑っている。
どうやら、カーセックスなどというムサシらしからぬ行動の理由も、すっかり見抜かれていたようだ。
「……ヒル魔」
「なんだ」
「好きだ」
そのセリフを言ったとたん、ヒル魔は顔をそむけて小さく舌打ちをした。
ヤキモチが嬉しいのなら、愛の告白も嬉しいだろうと思うのに。
「ヘンなヤツ」
苦笑まじりでぼそりと呟いた言葉はしっかりとヒル魔の耳に届いたらしい。
今度は、悪魔の形相で睨みつけてきたのだった。
了
祝! ムサヒルで……くうぅ(泣) 案の定、間に合わず。日付変わっちったようぅ。
カー○ックスネタ。て、今更フセ字にすることになんの意味があるのやら(笑)談ゴウ坂サービスエリアの字を変えてあるのはワザとですよ。しかし記憶があいまいでどんなとこだったかよく憶えてないなぁ。広いトコだったと思うんだけどー。
タイトルに深いイミなし!