『2対1』


完璧な無表情で、ヒル魔はぼそりと呟く。
「ムリしなくていいぞ」
それが本心だったとしても、かえってひけなくなった。
照明を落としたベッドルーム。白いシーツの上にお互い全裸で向かい合っているというのに、ヒル魔とムサシの表情に甘さはなかった。
それというのも、今日の放課後ふらりとヒル魔が近寄ってきて「インポになった」と告げたことに端を発している。

「マジでか?」
無神経に問い返した後、しまったと思ったが、ヒル魔は淡々と頷いただけだった。
それにしても、このテの性的な問題を抱えるにはあまりにヒル魔は若い。こんな少年のうちからそんなことになったりするものだろうか。
「その……どっかで事故って、たとえば背中を打ったとか、そういう……」
口ごもりながら床に向かってぼそぼそと問えば、いいや、覚えはねぇな、と返ってきた。
それにややホッとする。
であれば心理的な要因かもしれない。ムサシは更に重くなった口を何とか開いた。
「たとえば、……あー、その……女の、裸とか見ても……?」
途端、ヒル魔の膝が飛んできた。
本気の蹴りではないが、ムサシは腹をおさえてくの字になる。
「だ、からテメーに言うのヤだったんだよ!」
低い怒気をはらんだ声が、ムサシの頭上から降ってきた。
なにが「だから」なのかわからないが、ムサシの台詞は予想の範疇だったようだ。
ぐ、と襟首をつかまれ、引き起こされる。
至近距離にヒル魔の顔。ハタからみたら因縁をつけられていると思うだろう。
「テメー。あれだけさんざんつっこんどいて、俺が今更ホモはいやです、って言うとでも思ってんのか?!」
「ヒっ、ヒル魔……わかったからちょっと声を落としてくれ」
いつもに比べればヒル魔とても多少は声を落としているのだが、なにしろここは教室で、まだ帰らずにいるクラスメイトも数人はいるのだ。
もっとも、遠巻きにしているから、今の声は聞こえなかっただろう。いや、聞こえてなかったと思いたい。
ヒル魔はパッと手を離した。
「ナニ見てもダメだし、朝立ちもしねぇよ」
ヒル魔は、AVの類は自らネット販売を手がけていることもあって、見慣れている。
「そうか……」
その後どうやって「じゃあ実際に試してみよう」というのをヒル魔に了承させたかムサシにもよくわからないのだが。
とにかく、今は、こうしてベッドインしているわけである。

ヒル魔のそこは力なくうなだれているが、これはまだ何もしていないのだから、当然だろう。
とりあえず抱き寄せ、いつものように軽い口付けから行為を開始する。
舌を差し入れると、ヒル魔もきちんと応えてきた。元よりノリは悪くない。
それから、ヒル魔が好む耳への愛撫。ちら、と横目で伺えば、切れ長の目はうっとりと閉じられている。
手を伸ばして胸のかざりをなでると、ぴくりと身体が反応した。
いつもより丹念に、時間をかけて、慣れた身体をまさぐる。
左胸の突起を唇でついばみ、敏感な先端を舌先でつつくと、ヒル魔の腕がムサシの頭を抱え込むように回された。
程よく筋肉のついた平たい腹をなぜ、ヒル魔の身体をうつぶせにひっくりかえす。
浮き上がる肩甲骨あたりに口付け、背骨にそって舌を這わせた。
無精ひげが痛いのかこそばゆいのか、んっ、という小さな声があがり、ヒル魔は身体をすくませる。
腰骨の輪郭を指でなぞり、尾てい骨のあたり、双球のはじまるあたりを舌先で刺激しながら腰を抱えあげ……。
細い太ももの向こうに力なくぶらさがっているものを見て、不覚にもムサシは行為を中断してしまった。いつもならさすがにもう立ち上がっていておかしくないのに。
「だから言っただろ」
まるで他人事のように冷静なヒル魔の声がした。
ムサシはあきらめきれず、ヒル魔自身に指をそえてやわらかく揉む。だが、それに芯が通ってくる感触はなかった。
ふたたびヒル魔を仰向けにし、口に含もうとすると、「もういい」という声が聞こえた。ヒル魔が上半身を起こしてこちらを見ている。興奮の感じられない目つき。
だが、ムサシは無視して、それを咥える。先端を吸い、舌を絡める。
やがて、あきらめたようにため息をついて、ヒル魔は身体を横たえた。
根本から先端まで丁寧に刷き上げ、吸い付き、そうしながら二つの果実も痛くない程度に掌で揉んでみる。いつもならヒル魔の反応を見ながらだが、今日はそれがないので記憶に頼るしかない。その下のすぼまりにも舌を伸ばしてみたが、ヒル魔のそれはうなだれたままだった。
「……ムサシ」
怒っているのでも不機嫌でもない声。だが、ムサシは行為を続けられなくなった。ヒル魔が頭を持ち上げてムサシの股間を見る。そこは不本意なことに、すっかり元気になっていた。
「テメーはいかしてやるよ」
ヒル魔はすばやく身体を起こすと、シーツの上に正座しているような格好のムサシの膝の間に上半身を投げ出してくる。
左腕でムサシの腰をかかえ、右手を立ち上がっているものにそえて舌先を伸ばしてくるのを、ムサシはあわてて止めた。
「まっ、待て。……お前、全然何も感じないのか?」
ヒル魔は上目遣いにムサシを見ると、わずかに首をかしげる。
「全然てワケじゃねぇよ。感触はあるからな」
「その……触られたり舐められたりすると、気持ち悪かったりするか?」
「いや。それはねぇな。……よくもねぇが」
そうか、とムサシはやや安堵する。気持ち悪くないのなら、まだいい。
「……なあ、ヒル魔」
本格的にフェラをはじめようとするヒル魔の腕を掴んで起き上がらせる。
「なんだよ」
行為を中断させられて、ヒル魔は不機嫌そうだ。
「俺のわがままだ。その……入れさせてくれないか」
ヒル魔が目を見開く。ムサシはそれをじっと見つめ返した。
ヒル魔の唇が何かを言いかけるように数回開閉する。やがてヒル魔は視線をはずすと、「好きにしろ」とつぶやいた。
ムサシはその唇を吸い上げる。体中にキスの雨を降らせながら、再びヒル魔を横たえると、脚を開かせた。
前に軽く手をそえて、後庭の周りの、わずかに盛り上がっているところを舌先でくすぐる。
意図的にだろう、そこは、そっと、口を開いた。入り口に何度も舌をくぐらせ、十分に湿らせる。潤滑油は持ってきているが、出番はもう少し後にする。
同様に湿らせた指をあてがい、ゆっくりと中に差し入れた。ふ、とヒル魔の太ももに力が入る。
慣れた指は、すぐにもっとも敏感な場所をさぐりあてた。そこをさすってみるが、やはり前のものはぴくりともしない。性的に興奮していなければ、前立腺を刺激しても痛いだけだ。
どうする……。
ムサシの逡巡を見透かしたように、「さっさと入れろ」という声が投げつけられた。
その声に押されてムサシは行為を再開する。
「痛かったら言えよ」
だがさすがに言葉どおりすぐに入れるわけにはいかないので、指の数を増やしながら、用意してきた潤滑油の助けも借りて、十分やわらかくなるまでほぐしていった。
前は反応を見せていないが、興奮していないわけでもないようで、ヒル魔は頬を上気させ、浅く呼吸を繰り返している。
入り口から滴るほど十分に潤滑油を注ぎ、ムサシ自身にはスキンをかぶせ、それにも油を塗る。そこまでに、長い長い時間がかかっていた。ヒル魔は文句もいわずただ任せている。
ムサシはやっと己をあてがうと、ゆっくりと腰を進めた。
幸い、ヒル魔が痛がっている様子はない。
最奥まで突き上げ、軽くゆする。ヒル魔のわずかな表情を見逃すまいとしていると、それを嫌ってか、ヒル魔は顔をそむけた。
数回抜き差しをすると、きゅう、と締め付けてきた。生理的な反応ではない。意識してのことだ。
ムサシの律動にあわせている。突くときは力を弱め、抜く時に締める。
「ヒル魔……」
確実に快感をおぼえて追い上げられていく自身に情けなさを感じる。だが、かくなるうえは早く終わらせるしかない。
「すまん、少しだけ我慢してくれ」
低声でことわりを入れると、ヒル魔の足首をつかんでぐるりと身体をひっくりかえした。腰を高くあげさせる。
いわゆるドッグスタイル。普段、表情が見えないのをヒル魔が嫌うのであまりすることはないのだが。今はヒル魔の顔を見ながらイクのがひたすら後ろめたい。途中でなえかねないのを恐れて、あえてこの格好を選ぶ。
ヒル魔もそれを悟ってか、何も言わなかった。
後ろから力強く腰をうちつける。何も反応していないのを承知で、前にも愛撫の手を伸ばした。結合部から油がかきまぜられる音がひびく。
白い背中が、弓のように弧を描いている。きれいな背中だ、と場違いな感想を抱いた。
「んっ、ふ……っ」
苦しいのか、ムサシが突き上げるとヒル魔の唇から呼吸音が漏れた。
背中に覆い被さり、動きを激しくする。一気に絶頂を目指す。さすがにヒル魔もその速い動きにあわせることはできず、ただ、できるだけ締め付けていた。
「そろそろイクぞ、ヒル魔……」
小さく金髪の頭が動いたのを確認し、ムサシは最後の坂を駆け上がった。

無言のままうなだれるムサシをおいて、ヒル魔はさっさとバスルームに向かう。身体はだるかったが、そのそぶりは見せなかった。
ざっと洗い流すと、バスローブをはおってベッドへ戻る。
ムサシはさすがに使用済みスキンは始末したようだが、まだ全裸のままベッドのふちに腰掛けていた。
「オラ。シーツかえるからどきやがれ」
わざとじゃけんに背中を足蹴にする。
のろのろと立ち上がるムサシをバスルームへ追いたて、言葉どおり清潔なシーツととりかえた。今までのものは丸めて部屋の隅へころがし、ベッドに横たわる。
テメーだけはいかせてやるっつってんのに。
自分が悪いわけでもないのに罪悪感いっぱいのムサシの目。あんな目をさせたいがために抱かれたのではない。少しでも性欲を解消させてやりたいと思ったから、頷いたのに。
人生は長いのだから、こんなこともあるだろう、とヒル魔は思っている。原因不明な以上、またいつひょっこり治るとも限らないし、第一アメフトができなくなるよりは何倍もマシだった。
やはり疲れていたのだろう、そのまますぐに眠りに落ちた。
夢を見た。
夢の中でヒル魔は誰かに愛撫され、感じていた。分厚い舌が唇をなぞり、口内をかきまわす。
「あ……ん」
小さく声を漏らし、それに応えようと舌を突き出しそうとしたところで目がさめた。
すぐ目の前にムサシの顔。ヒル魔はややうろたえた。
「大丈夫か、ヒル魔」
夢うつつに身もだえたのをうなされているととったのか、心配そうな目でのぞきこんでくる。
「なんでもない。夢だ……」
そう応えた途端、ぞくっ、と総毛だった。誰かが、耳朶を甘噛みする感触。
夢じゃない……!
いきなり身体をこわばらせて目を見開いたヒル魔にムサシはうろたえた視線を向けている。
だが、ヒル魔もそれどころではない。相変わらず誰かの手が、舌が、身体を這う間隔が続いている。だが、ふと気づいた。
これは……ムサシのやり方だ。
枕もとの時計に目をやる。行為をはじめてからちょうど4時間が経過しようとしている。
時間をおいて、感覚だけがよみがえった。理由はわからないが、そうとしか思えない。
「どうした? ヒル魔」
心配そうにたずねるムサシの腕をつかむ。久々に、ほんとうに久々に下腹部に血が集まってきていた。
「ヒル魔?」
「わかんねぇ、けど……さっき、テメーのしたことが今ごろよみがえってきて……」
「は?」
まぬけな声が返ってきた。
「だから……4時間もたってるけど、感覚だけ、今……」
見せたほうが早い。ヒル魔はバスローブをはだける。ヒル魔の太ももの付け根から、屹立したもの。
ムサシがごくりと生唾をのんだ。
「つまり、さっき俺がしたことを今感じてるってことか? 今も?」
そう言ってるだろう、と思うが怒鳴り返したりはせず、ヒル魔はただ頷いた。
「でもお前、感触はあるって……。一体、どうなってるんだ?」
「……俺が、知る……かよ」
上がる息をこらえるために、ヒル魔の返答は途切れがちになる。
バスローブを着ているにもかかわらず、ところかまわずややざらついた掌の感触。ムサシの掌だ。不思議な感覚。だが、それ以上にヒル魔の身体はすなおに愛撫を受け入れている。目の前にムサシがいるのに、その感覚に意識をもっていかれそうになる。恍惚に目を閉じてしまいそうになるのをこらえた。
「ヒル魔」
ムサシがかすれた声でささやいた。
「ワリぃが、こんなお前を見ちゃ、とても冷静じゃいられねーぞ」
口調は静かだが、目が底光りしている。興奮しているしるしだった。
ヒル魔が返事をするまもなく、前歯がぶつかるほどの勢いでムサシが唇をむさぼってきた。
「んん……っ」
荒々しい口付けと、それとは対照的にゆっくりとした愛撫にヒル魔は混乱する。
「ん……ん、あ……」
これって、もしかして3Pってコトじゃ……?
まあ、そのうち二人はムサシなのだが。
そんな冷静な思考をしようとする努力もむなしく、ヒル魔は追い上げられていく。なにしろ二人分だ。
「……あ、……ん」
おまけに久しぶりなので、余計に新鮮に感じてしまう。
胸の突起をもてあそばれる感覚。と同時に、うなじを攻められる。ことに先刻のは相手が透明人間のようなもので、予測がつかないだけに刺激も大きい。
「ひ……っ」
びくりと肩をすくめ、ムサシの胸にすがりついた。
胸にも耳にも、湿った舌の感触。
きつく目を閉じてぶるぶると震えながらヒル魔は耐える。
「ヒル魔。今どう感じてる?」
ムサシとても、自分がどんな順序で愛撫したかなど細かくは覚えていないのだろう。そう尋ねてくる。
「胸……を、舌で……」
「どっちの?」
「ひ……左」
そうか、とムサシは頷く。
「じゃあ右もしてやろう」
そう言ってついばんできた。
そっくり同じやり方で両方の飾りをいじられる。
「あっ、あ!」
ヒル魔はムサシの頭を抱え込んで嬌声をあげた。
「なあヒル魔」
いたずらの合間にムサシは口を開く。
「逐一教えてくれよ。さっきの……その、俺が何をしてるか」
イヤだ、という代わりに激しく首を横に振る。
「だってお前感じてるじゃねぇか。久しぶりなんだろ?」
ヒル魔の前で立ち上がっているものをつつくと、視線を上げてきた。
その中に、純粋に喜んでいる様子を見て取って、ヒル魔も反論をあきらめる。
頷きこそしないが黙ったヒル魔を見て、了解したらしい。ムサシは愛撫を再開する。
びく、とヒル魔がのけぞる。
「次は?」とムサシ。
「……背中」
小さく応えると思い当たったらしい。ヒル魔をうつぶせに寝かせる。
足元の方にうずくまると、膝裏から太ももの方へ唇をはわせはじめた。ヒル魔は背中への口付けと、脚へのそれを同時に感じる。さっきと違うのは、ヒル魔の中心が痛いほどたちあがり、シーツにおしつけられていることだ。
「あっ!」
ヒル魔の声がひときわ高くあがり、自然に腰がもちあがる。割れ目のはじまる敏感なところをぬるぬるとした感覚が這い回っていた。それと察したムサシが後ろのすぼまりにも舌を伸ばしてきたから、たまらない。
「あっ、あっ」
ヒル魔はシーツをわし掴んで悶えた。
一瞬、舌の感覚が途絶えて、前をやわらかくもまれる感触にかわる。
「ああ……駄目」
今そんなことをされては。
おびただしい量の液を滴らせながら、奥歯をかみしめて、いきそうになるのをこらえた。
また、少しの中断。ほっと息を吐く。やがて、前のものをすっぽりと、湿って暖かいものに包まれる感触。これは……。
「……ヒル魔?」
言え、という意味だろう。ヒル魔は荒い呼吸の合間に口を開く。
「前……テメーが咥え……て」
ああ、と頷いて、ムサシはヒル魔を仰向けにさせる。
そしてなんと、前のものに舌をからめてきた。
ふたりぶんの口舌による攻撃に、ヒル魔は悲鳴をあげた。
もちろん今までにもそんな経験はない。
「駄目、駄目……っ」
イク。イッてしまう。
我慢もなにもなかった。
「ああっ、ああ……っ!」
勢いよく、ヒル魔は白濁したものを吹き出した。口唇による刺激が続いているせいもあり、ご無沙汰だったせいもあって、なかなかおさまらない。
「はあっ、はっ、……ああぅ……っ」
いつもよりずっと大量に吐き出したにもかかわらず、硬直はそのままだった。だが、吐精直後でより敏感になっているにもかかわらず、唇と舌によって与えられる感覚は止まない。先刻は感じていなかったのだから、当然といえば当然なのだ。いったいどのくらいこれを続けていただろうか? しつこいほど丁寧に、ずいぶん長い間含まれていた気がする。
今のムサシは口による愛撫をやめて、ヒル魔が吐き出したものをピクピクと震える先端に指で塗りつけるようにしている。指による快感と舌による快感を同時に味わうというありえない状況。
イイ。好すぎる。
「あっ、あっ、やめ……」
与えられる刺激から逃がれようと無意識に腰をひねるが、無駄なことだ。ビクビクと痙攣しながら、ヒル魔は首を大きく左右に振る。髪がシーツにあたってパサパサと音をたてた。
やがて、感覚が止んだ。ふ、と身体から力を抜いたのを見て、ムサシがもの問いだげな視線を向ける。
「今、とまってる」
そうだった。ここでヒル魔がフェラをするかどうかで多少もめたのだ。
ムサシも思い当たったのだろう、潤滑油を取り出した。
「つってもこのあと結構時間かけたからな」
「……」
ヒル魔には答えようがない。
「お前、大丈夫か?」
ブチきれるところだったが、いきなり再開されたキスの感触に、ヒル魔は開きかけた口をつぐんだ。
「はじまったらしいな」
ムサシがヒル魔をうつぶせにする。
さっきはあおむけだったはずだ。
そう思っていると、ムサシが両方のふくらみを分けるようにして舌をのばしてきた。
また、ふたりぶんの感覚が襲う。一方は前から。もう一方は後ろから。
「ひぁ……」
ぞくぞくとした感覚が背筋をかけあがる。ヒル魔は目をきつくつむり、小さく甘い叫びをあげ続ける。
さっきと違うのは、入り口がひとりでに伸縮を繰り返しはじめたことだ。
ゆっくりと指が入ってくる感触。それがもっとも敏感なところにたどりつき、すばやく前後にさすられた。
「ひっ」
直接快感の源を触れられたような感覚に硬直する。そのヒル魔にかまわず、今のムサシは入り口付近にさかんに舌を躍らせている。
長い愛撫に音を上げたのはヒル魔だった。
「あ……はあ、は……も……いい。さっさと、ツッコめよ……!」
「いいんだな?」
その質問の意味するところがわからぬまま、ヒル魔は仰向けにされる。
ぐ、と今度はスキンなしでムサシが入ってきた。
「あっ、あーっ!」
ヒル魔はさけぶ。ようやっと先刻の了解を求める意味がわかった。太いものが差し入れられているのに、指での感触も続いているのだ。
「ああっ! あっ!」
「俺がもたねぇかもしれねーな」
ムサシの低い呟きは、もはやあえぐヒル魔の耳には届いていなかった。
ゆっくりと律動を開始すると、ヒル魔は狂乱と表現するにふさわしい乱れ方を示した。
己の金の髪をつかんでのけぞり、口を大きく開いて舌を突き出す。体中が痙攣していた。
「あっ、あっ、イク、もうっ、イク……っ」
爪先立ったまま腰をゆすり、顎をあげ、イク、と叫んだ。
全身を硬直させていたが、やがてゆっくりと力を抜いた。もっとも、指で与えられる感覚は続いている。弛緩していても、太ももがさざなみのように震えた。
少し休ませて欲しいが単なる記憶に通じるはずもない。
「あぁ……ん」
小さく身悶える。哀願の気持ちが、らしくもない甘ったるい喘ぎとなって漏れてしまう。
ムサシはこわばりを内部におさめたまま、じっとしている。ムサシとてもやばいところなのだろう。
「あっ?!」
ヒル魔の身体が、びくっ、と震えた。
「入ってくる……!」
すでに埋められているのに、入ってくる感覚もある。
シュールな状況だと感想を持つ間もなく、ヒル魔は四肢をつっぱらせた。
突かれる感覚にヒル魔が短く声をあげ始めると、ムサシも律動を再開した。
太い……っ!
ムサシのものはこんなに質量があっただろうか。混乱する頭でなんとか考えようとして、ハタと気づく。
自分のせいだった。
ムサシがイケなくては困るだろうと、懸命に締め付けたのだ。そのせいでやけに抜き差しされる感覚が生々しい。
「ヒル魔、ゆるめろ」
苦しげなムサシの声。記憶につられたか、よすぎるせいか、ヒル魔の中は自身のコントロールを離れてムサシのそれをぎゅうぎゅうと絞り上げている。
深呼吸をしてゆるめようとする行動で、内部にうねりが生じる。
キツい……ああ、でも……っ
やがて、ぐるりとムサシの硬直が反転する感覚。そうだった、ここでバックになったのだった。
そう思ったのも束の間、激しいピストン運動が始まった。
「あああっ」
ヒル魔が顎をのけぞらせて短く叫び、ガクガクと身体をゆすると、気づいたムサシが負けじと腰の動きを速くした。
できることならバカヤローと言ってやりたいが、それどころではない。
前からと後ろからと同時に2本、速い動きで抜き差しされる感覚に翻弄される。前からはおびただしく透明なものがあふれ、下腹部をつたってせっかくとりかえたシーツに大きなシミをつくっていた。
燃え上がるように熱い。頭と下腹部が。
駄目。もう駄目。おかしくなる……っ。
視点がぼやける。室内の光景は網膜に映っているだけで、見てはいない。目を閉じると、まぶたの裏に星が飛んだ。めちゃくちゃに揺さぶられているようだ。
強すぎる快感にヒル魔はしゃくりあげるような悲鳴をあげ、今にも切れそうな意識に本能的な恐怖を感じてひたすらムサシの腕にすがる。
痙攣がおさまらない。顔が汗と涙と涎でぐちゃぐちゃになっていそうだが、それも意識の外だった。
悲鳴に嗚咽が混じる。
ムサシ。ああ、もう。早く……もう、イッてくれ。ムサ、シ……ムサ……ああ……あ……厳……っ
口に出した覚えのないヒル魔は、ムサシがなぜ力強く抱きしめてきたのか、わからなかった。そんなことに考えをめぐらす余裕はとうにない。ただ、反射的に抱きしめ返した。
いくぞ、妖一
低い声が、直接頭蓋へ響く気がした。
「……っ!!」
声すらあげられずヒル魔は達し、そのまま途切れるように気絶した。

こんこんと眠り続けるヒル魔の身体をきれいにしてやりながら、初めて最中に名を呼ばれたムサシは、反省したものか喜んだものか、大いに悩んだのだった。
なお、ヒル魔の症状はその晩を境にすっかり回復した。

あれは一体なんだったのだろう、とムサシは首をひねる。ヒル魔は、あのときのことはよく覚えていないと言う。だが。
「そうか? 妖一」と応えたら顔を赤くしていたから、実は、概ねのところは記憶にあるのだろう。
ムサシも微笑しただけでそれ以上はツッコまなかった。にもかかわらず、蹴りは飛んできたのだが。


これはあるSFのパクリです。(またかよ)。感覚が時間差でよみがえるという点以外は違うんですが。まあ、それが一番重要だけどね。
にしても、原稿用紙20枚以上文章量あるのに、さいしょっから最後までほとんどベッドシーン。われながらスゴいな〜。や、2ラウンドしてるから、なんですけどね。

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