『プレゼントはわたし』 2


ふ、と覚醒した時、すぐ目の前にムサシの顔があったのには驚いた。
寝顔(というか、ほとんど失神状態だったが)を見られて恥ずかしいと思うほど甘い関係ではないが、多少はきまずい。
「……ナニみてたんだ」
愚問かな、という気もしたが、ヒル魔はそう口を開いた。
ん、ああ……。と、ムサシは口のなかで言葉を転がしている。
「今度はどうするかな、と思ってな」
今度って……。
予想の範疇とはいえ、ヒル魔はいささかげんなりとする。
もっとも、さんざんじらされて泣き喚かされたのはヒル魔だけなのだから、ムサシはヒル魔ほど疲労していないだろう。そう思うとむっとする。
その不機嫌さのまま、「もうしねえ」と言ってやろうかと思ったが、一晩つきあう、と約束してしまったのは他ならぬ自分自身だ。
ヒル魔はほぞをかみながらムサシをにらみつける。
「てめー、加減はしろよ」
「ああ。……疲れたか?」
そういいながら、ムサシはヒル魔の胸をそっと撫でる。そこに性的な意味は感じられない。ただ、気遣いがあるばかりだ。
「……」
この男は本当に自分以上に卑怯だ、と思う。
ムサシ。
小さくつぶやいて唇を薄く開けば、心得たように舌を差し入れてくる。
太い舌に口内をさぐられ、自分の尖り気味の長い舌がひきだされる。ムサシの唇でぬるぬるとしごかれると、快感が走り、思わず目を閉じた。
「ん……」
荒くなる息。ヒル魔はがっしりとしたムサシの背中に腕をまわす。
ぐ、とムサシの体が動く気配がして、ヒル魔はベッドから抱え上げられた。
「!?」
そのまま運ばれ、どこへ行くかと思えば、ベッドのそばにある鏡台の上へ。
シティホテルによくあるタイプのキャビネット。下は戸棚で上に鏡がついている。
一メートルもない棚の上に腰をかけさせられ、ヒル魔はとまどった。身じろぎした拍子に背中が鏡面にあたり、その冷たさに身体をすくめる。
「……ここじゃ、高ぇんじゃねえ?」
ムサシの頭が、ヒル魔の腹あたり。ムサシが爪先立ちしても、さすがにこの高さでは入れることは不可能だ。
「……そうだな」
ムサシは不気味なほどにっこりと笑うと、頭を下げてヒル魔のものを口に含んだ。
ヒル魔にそれを拒む理由はない。
ヒル魔自身が、ムサシの口の中で形を変えていく。
十分に育ったところで、ムサシはそれを解放した。
「気持ちいいか? ヒル魔」
今更のように聞かれて、ヒル魔はとまどいつつも「ああ」と応える。だが。
「足りないだろ?」
続けてそう尋ねられ、返す言葉をなくした。
ムサシがなんのことを言っているか、すぐにわかった。
たしかに、さっきあれだけ激しい絶頂を迎えたヒル魔だったが、それでもまだ、物足りなかった。
以前なら、その存在すら知らなかったであろう場所が、うずいている。
ヒル魔が黙っていると、ムサシはヒル魔の腰をかかえて、ひょい、と体の向きを変えた。
鏡と正面から向き合う形になる。せまい板の上にむりやり座らされているのだ。脚を伸ばすスペースなどもちろん無く、ヒル魔はM字開脚に近い形をとらされている。
自分の恥部など見たくないので、ヒル魔は鏡から視線をそらす。
ムサシはヒル魔の背中をしっかりとかかえ、落ちないように……言葉を変えれば勝手に降りないように、支えている。
そうしておいて、ヒル魔の太ももの上から顔を突き出すようにして、ヒル魔のソコを覗き込んだ。
「んなモン見て楽しいのかよ」
ヒル魔がうなると、かすかに顔をあげる。
「そりゃ、お前はな。だが、俺は楽しい」
右手を伸ばして、ヒル魔の前のものに指を滑らせる。
やや力がなくなっていたが、ヒル魔がびくりと身体を震わせると、少ししゃんとする。
「お前がよがってるところも見れるし」
低く笑いを含んだ声でそういわれて、ヒル魔は唇をかんだ。
「もうちょっと照明が明るいといいんだがなぁ」
ほとんど独り言のようにムサシはつぶやいて、ヒル魔のものを今度はしっかりと握りこんだ。
リズミカルにこすられているうちに、快感が増してくる。
鏡の中、ムサシの手が上下している様がよく見える。
「あ……あ……」
こらえきれずに、声が漏れ始めた。
ムサシはぴたりと手をとめ、離す。
ぴく、と小さくそれが震えた。
「見ろよ、ヒル魔。お前は色が白いから、血管が浮き出してるのがよくわかる」
元々色が白いところへ、ほとんど色素の沈殿していないそれ。さすがに何も知らなかった頃とは違ってきたが、むしろ淫靡さを増した感さえある。
ムサシは血管をなぞるように、そのわずかな凹凸を確かめるように、ごくごく軽く指を這わせる。
むろん、そんなわずかな刺激ではもどかしいばかりだ。
「ムサシ……」
「ん?」
「そこじゃなくて、もっと……」
「違うところがいいか? どのへんだ?」
今更なにを、と思う。もちろん、わかっていての言葉だ。
ヒル魔はムサシの手をつかんでその人差し指をひきだし、指の腹をおのれの裏筋へあてがう。
「ここ、だ。それから、上へ……」
つつ、とムサシの力の抜けた手がヒル魔を愛撫する。いや、それをしているのは自分だ。
「それから?」
ムサシが訊いてくる。だが、握られた手をほどくわけでもなく、力を抜いたままヒル魔のするがままにさせている。
「それから……」
自分より大分太く、色の黒い指を今度はエラの裏あたりへ押し付け、こすりつけた。
「……っ、……!」
びく、と身体が震える。自分でしておいて感じるなんて馬鹿みたいだと思いはするが、とめられない。
先端にぷくりと白い泡が浮かんだ。
ヒル魔はためらわずそれをムサシの指ですくい、先端全体にぬりつけるようにする。
力の加減がうまくいかないせいで、ときおり指がはずれ、先端がゆれる。
「……ムサシっ」
気持ちはいい。気持ちはいいが……。
ムサシがふいにヒル魔の手をほどく。ぐっ、とムサシの肩で背中をおされて、ヒル魔の腰がさらに前へ出た。
勃ち上がっているもののさらに奥。いまは口を閉じている箇所までが鏡に映し出された。
そして、ムサシの指はせまい会陰部を渡り、いまだしっかりとすぼまっているところへ伸びていく。
ヒル魔はまじろぎもせず、鏡に映るそれを見ていた。
ムサシの指がそこにふれ、小刻みにゆすられる。ヒル魔自身の滑り気が、そこに塗りつけられる。
小さく円を描く。周囲の襞をなぜあげる。浅く埋めて、小刻みに震わせる。
自分はいつも、こんな風に愛撫されていたのか。
ヒル魔はそれら動きを目で追っていた。
「ヒル魔」
ふとももに小さなものがあたる感触。見ると、ムサシが別の手にビンを持っていた。
「俺は手が塞がってるから、お前これあけてくれ」
ムサシの言うとおり、ムサシは右手でヒル魔を愛撫し、左の腕で背中を支えている。
ヒル魔はそれを受け取ると、ふたをあけた。そのふたは、背中越しにベッドの上へ放り投げる。
「ん」
ムサシが向けた掌の中に、ビンの中の液体をそそぎこんだ。
ぬめり気のあるそれは、もちろん潤滑油で、すでにヒル魔にもなじみのあるもの。
ムサシは掌に受けた潤滑油を臀部の間に塗りつけるようにする。その指が、ずる、と突然ヒル魔の中にもぐりこんだ。
「は……っ」
思わず短い息が漏れる。先刻からしきりに虚しさを訴えていたそこへ、やっと存在を感じることができた。
しめつけそうになるが、意図的に力を抜く。
ムサシは軽く指を何度かぬきさしすると、それをゆっくりと2本に増やした。
「ヒル魔」
そうしておいて、くいくい、となにか催促するように中で動かす。
ここに潤滑油を注げ、という意味だろう。
無茶言いやがって……!
ヒル魔の屹立がほとんど腹につくほどでなければ邪魔されて見えなかっただろうが。
ヒル魔はビンの口をムサシの人差し指を中指の間につけて傾ける。
体温より大分冷たい液体が、己の中へ入ってくるのが感じ取れた。
カラになってしまったビンを、床へ放る。
ゴト、とじゅうたんとぶつかる鈍い音がした。
「ヒル魔、鏡見ろよ。お前の中に俺の指が入ってるのが見えるだろう?」
言われるまでもなく、ヒル魔はさっきからそれを見ていた。
口の中がひどく渇く。
「ん……っ」
のどを鳴らしてつばを飲み込むが、そのせいで更に呼吸が乱れてしまう。
くちゅくちゅと音を立てて抜き差しが始まる。
はじめはゆっくりと、そのうち徐々にスピードを増して。
水音が激しくなっていく。
すごい速さで往復する手を、指を、鏡の中に見る。
「あああ……」
ヒル魔はほとんど無意識にかぶりを振る。
ピタ、とムサシが動きをとめた。
その指が、さらにもう1本増やされようとする。
「や、ムリ……だ、って!」
3本目がゆっくりと沈んでいく。限界だった。男の太い指を飲み込んで周囲のヒダがのびきっている様はいささか痛々しい。
そこをムサシがやさしく親指でなぜた。
「あ……っ、あ」
ヒル魔の内部が絞まり、ムサシの指をしめつけるのを感じる。
中指が……おそらく中指が、更に伸びてきて、内部のもっとも敏感な、わずかな隆起をこすった。
「あ! あっ!」
鏡を見るどころではない。ヒル魔は声を上げてのけぞる。
ムサシがあわてて背中に回した腕に力を込めた。
「はあ……っ、は……っ」
呼吸を整えようと大きく息をつく。
ふ、と目線をあげて鏡を見ると、まるで見せつけるようにゆっくりと、緩慢にムサシの指が抜き出されていくところだった。
くちゅ……かすかな水音とともに、ムサシの指が抜ける。
あ……。
そのあとには……。
「いい眺めだなぁ」
ぽかりと口を開いた、ヒル魔の後庭。
潤滑油が滴り、板の上へ流れた。
ムサシは黙って鏡に映るそれらを見ている。
ヒク……。
視線に耐えかねたように、そこが震えた。
ヒクヒク……ッ。
一度動いてしまうと、もうこらえがきかない。
誘うように何度も伸縮を繰り返す。
「……っ、は……はぁ……」
ヒル魔は意味のない敗北感をおぼえながら、じっと己のその動きを見ていた。
いくらうごめいても満たしてくれるものはない。
なにもされていないにも関わらず、前で立ち上がっているものからあふれ出し、滴った。
ピクピクと震えてもいる。太ももが小さく痙攣をはじめる。
ムサシはやはりじっと黙って、その一部始終を鏡で見ている。
なにかにとりつかれたように、視線を動かさない。まじろぎもせず、熱にうかされたように。
ムサシがなにを考えているか、ヒル魔にはわかる。だからこそ、期待にひくつくソコをとめることができない。
あそこが動いている。誘うように。否、「ように」、ではなく……。
「ムサシ……もう……っ」
ヒル魔が呼ぶと、やっと視線をあげ、
「う……わっ?!」
いきなりひきずり降ろされた。
横抱きにかかえられ、乱暴にベッドに横たえられる。
ほとんど同時にムサシが覆いかぶさってきた。
「ヒル魔……」
押し殺したような、かすれた低い声。
すぐ目の前に、ムサシの顔があった。その目が欲情と興奮で底光りしているのを目の当たりにして、ゾクッ、と背筋が震えた。
湧き上がる衝動のまま、ヒル魔の唇が言葉を形づくる。声にもならない唇の動き。
だが、それを捕らえ誤ることなく、ムサシはかみつくようにその唇をむさぼり、両の太ももを抱え上げ……
「あっ、……あーっ!」
一気に貫いた。
欲しい、と呟いたヒル魔に応えて。

そしてあとはただただ、激しい行為が明け方まで続いていた。


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誰が誰にナニをあげてるって? 誰のバースディだ、まったく;