『全身リップ』


ごつい顔つきで、筋肉質の身体を似合わない白衣に包んだ男……武蔵は、目の前に吊るされた裸体を見上げた。
色白できゃしゃな骨格をしているが、まぎれもなく男の身体つき。後手に手首を拘束され、両足は折りたたんだ状態で太ももと足首をまとめてくくられている。そしてそのまま天井からそれぞれの拘束具へ特殊なロープでつながれ、吊り下げられているのだが、開脚した状態を保つため、両膝に挟む格好で一本の棒が渡されていた。
金色の髪で覆われた頭部は、今は意識がないため肩の間にがくりと垂れている。長い前髪のためによく見えないが、両目部分は厚い黒い布でしっかりとふさがれているはずだった。
武蔵の手元の書類には、この男の犯罪歴が列挙されている。もっとも、いずれも証拠不十分のため、検挙に及ばず、と記されている。
とはいえ、ここは軍の収容所だ。多少証拠不十分であろうと、あやしいものを捕縛する抜け道はいくらでもあった。
武蔵の肩書きは表向き軍医であるが、治療にたずさわったことはここ数年記憶に無い。なぜなら、武蔵のここでの仕事は医療ではないからだ。
書類には、さらにこの男の身長、体重、血液型や推定年齢、既往症の有無なども記されているが、氏名や出身地、家族構成といった個人情報は一切ない。かわりに、C111という番号が振られ、この男はこの施設内ではその番号で呼ばれている。
施設に収容された日付は、今から一カ月以上も前のこと。それまでただ収監されていたわけではないことは、武蔵も分かっている。
武蔵のところへ送られてくるのは、とりわけ軍に反抗的な収監者ばかり。そして、社会への影響力の大きい者ばかり。武蔵が行っているのは、それらの人間を、可能ならば洗脳し、洗脳が不可能ならばひっそりと廃人にしてしまう作業だった。
といっても、いきなり武蔵の元へ送り込まれるわけではなく、先に拷問にかけられたり、会話や賄賂による篭絡が試みられている。見たところ目立った外傷はないが、それは万が一、人権保護団体に見つかった場合面倒だからという理由なだけで、直接神経や内臓を痛めつける方法もいくらでもある。それが通用しない者だけが、ここへ運ばれ、有形無形の洗脳がほどこされるのだ。
だから、ここまで来るものはそう多くない。
武蔵は手元の書類に視線を落として、ため息をついた。そこには赤い文字で、脳を損傷しないこと、と注意書きが記されている。
無茶言いやがる……。
内心で、ごちる。この場所まで運んだら、とりあえず死にさえしなければあとはどうなってもよい、というのが今までの暗黙の了解。だが、この男に限っては、事情が異なるようだ。
脳をダメにできないとなると、薬も使えない。
そんなに脳を傷つけたくなきゃ、いっそ脳を取り出してコンピュータに繋いどきゃいいだろうに……。
そうは言っても、命令は命令だ。
武蔵はきびすを返して、部屋を後にした。

数分後、その隣室に武蔵の姿があった。隣りの部屋とは大きな窓ガラスで仕切られているが、マジックミラーなので、こちらからのみ、吊り下げられた男を見ることができる。
どうせ目隠しされているがな……。
部屋には武蔵のほかに、数人の助手の姿。いずれも慣れた手つきでコントローラーやモニタを操作している。
そのひとりに武蔵が軽く頷いてみせる。助手が2つ3つボタンを押すと、隣室の天井からいくつもコードをぶらさげたヘッドギアが下りてくる。機械のアームによって、意識を失っている男の頭部へ器用にかぶせられた。
次の瞬間、男の身体がびくりと跳ね、唇からうめき声が漏れた。
「……そろそろ起きてもらおうか」
武蔵はマイクへ向かって話し掛ける。その声は、隣室のスピーカーを通して、男の耳に届いているはずだ。
モニタに映し出される男の脳波は覚醒状態を示していた。
『今までとは違う部屋だな』
隣室の男の声が、武蔵のつけたヘッドホンから流れてくる。相手の音声は武蔵のみが聞けるようになっていて、助手がふたりのやりとりの全貌を知ることはない。
それにしても……他の感想はないのか?
視界がふさがれていても、全裸で宙吊りにされているのはなんとなくわかるだろうに。
『俺は蛭魔妖一。てめぇは?』
「……名乗る必要はない」
武蔵がそう答えると、男は、ケケケ……と形容しがたい笑い声をあげた。
『要するにテメーも、軍のちんけなコマのひとつ、ってこったな』
まるでちんぴらのような口の利き方。安っぽい挑発。歳も随分若いようだし、本当にこれがここに運ばれるに値するほどの人間なのか?
「……お前に出された要求は、軍に協力するという確約だ。まあ、ここへ来るまでにも散々言われただろうから、分かっちゃいるだろうがな」
『ああ。なんとかのひとつ覚えみてーに言われたな』
「そんなに協力するのが嫌か?」
『嫌だ』
にべもない。
「何故だ? 軍が嫌いだからか?」
『別に嫌いじゃねぇよ。いいお得意様だしな』
そう言って、再び笑い声。
そういえばさっき見た書類には、武器の密輸、売春斡旋、脱走兵の幇助、といった文字も並んでいたようだ。
「なら、協力してもいいんじゃないか?」
武蔵が言えば、チッ、と舌打ちする音。
『協力ならしてやるよ。だが、てめーらの要求はそうじゃねえ。手伝わせはするが、見返りはやらない。そんなのは協力とは言わねーんだよ。母国語ぐらい正しく使えってんだ。初等教育からやりなおしてこい。糞どもが』
「……なるほど」
それにしても、この男の余裕はなんなのだろう。モニタを見る限り、発汗量も心拍数もまったく正常。緊張もしていなければ興奮もしていない。
「言い直そう。無期限、無条件の『協力』だ。一応もう一度聞いておくが。……軍に従う気は?」
『ない』
「だろうな。まあ、気が変わったらいつでも言ってくれ。ちなみに嘘をついても無駄だ。発見器があるからな」
武蔵は相手の返事を待たずに、わざと音を立てて通信を切った。
ブツッ、という愛想のない音が、隣室に響いたはずだ。
「3……いや、2分たったら、例のやつを始めろ」
助手はその指示に無表情に頷いた。
正確に2分後、天井から数本のアームが姿を現した。その先端は人間の手のひらのようになっている。シリコンだが、触感も人とさほど変わらない。違うのは……。
アームの掌がヒル魔の身体へ、ペタリと張り付く。ヒル魔が身体をこわばらせた。それを見て、武蔵は通信をオンにする。
「さっき言い忘れたが……排泄はそのまま垂れ流してもらってかまわんぞ。除菌も消臭も自動的にするからな。撮影はしているが、どうせ気にはならねぇだろ?」
『おい、てめぇ! なんだコリャあ!』
ヒル魔が身体を揺らしながら叫ぶ。アームを避けようとしてのことだろうが、無駄な足掻きだ。
「なに、とは?」
『すっとぼけんな! 今塗りつけてるモンだ!』
「ああ……。いわゆる、ローションだな。催淫剤と呼ぶほどのものでもない。市販もされてるやつだから、後遺症はない……だろう。たぶん」
シリコンの掌からは、ローションが分泌されるようになっていて、ヒル魔の身体に機械の執拗さで丁寧に塗り込めていく。
『……っ』
「効き目はあるようだな。身体が火照ってきた」
サーモグラフィを見れば、一目瞭然だ。
武蔵が助手に合図すると、アームの動きが変化した。
それまで全身を撫でさするようにしていたものが、2本はそれぞれの胸のかざりへ。残りの一本が両足の間でぶら下がっているものへ伸ばされる。
触れられるのを感じてか、ヒル魔が唇を噛んだ。
「舌を噛み切ろうなんてバカな考えは起こすなよ。すぐに治療できる。痛いだけだ」
『ほざけ。誰がそんな真似するか、馬鹿馬鹿しい』
ヒル魔がそうはき捨てるうちに、中心のものに変化が見えてきた。視界をふさがれているせいで、余計鮮やかに触覚を感じるはずだ。
『しょっちゅう、こんな真似してんのか、この糞デバガメ野郎』
「……」
『まさかこれが楽しみなのか? 可哀相になあ。いくら軍のエリートでも変態じゃあな』
「……」
武蔵は沈黙したまま。ベラベラしゃべるのは追い詰められているから。気を紛らわせたいだけだ。
それにしても……存外素直な反応だ。
まあ、たまにいるけどな。苦痛には強いが快楽には弱い手合いが。こいつもそのクチか?
しかし、先ほど見た書類には、女や男を使った手段にも興味を示さなかった、とあったが。
もしや……。
「変態なのはお前じゃないのか?」
『……なんだと?』
「お前、感じるのが恐いんだろう。よほど初心なんだな」
『……ケッ』
「意外だな」
武蔵はくっくっ、と喉で笑った。今まで、ここに運ばれるような人物は大抵のことはやりつくしてきた者ばかりだ。
「どんなに強がっても、反応で分かる。可哀相にな。大して経験もないうちに与えられる快感がコレとは」
『……』
「繰り返すが、協力したくなったら言ってくれ。いつでも止めてやるよ」
そしてまた、通信を遮断した。
ヒル魔が何かわめいているが、それも音声をシャットアウトしてしまう。どうせ録音はされている。
やがてヒル魔は顔をふせて動かなくなった。気絶したり眠ったりしているわけではない。機械は間断なくローションを垂らしながら攻め立てているが、そのスピードは完璧にコントロールされていて、緩慢な快感と興奮状態以上のものをもたらすことはない。
ヒル魔の太もも辺りがときおり微妙にこわばる。空腰を使いそうになるのをこらえる為だ。
武蔵は通信を入れ、おい、と呼びかける。
ヒル魔はびく、と顔を上げる。その拍子に体が動いてアームとこすれ合う。
『……っ』
声こそ出さなかったものの、ヒル魔の眉根が切なく寄せられた。
「自分で動いてもいいんだぞ。見られながらだと、余計感じるか?」
『……変態』
「お前のことだ。そんなにだらだら垂れ流してな」
武蔵の言葉どおり、ヒル魔の前からはローションの働きもあって、ひっきりなしに白いものがあふれている。
「イってもいいぞ。腰を振れよ」
『男がイクとこ見て楽しいのかよ』
「仕事だからな」
ヒル魔が黙る。そのまましばらく沈黙が続く。武蔵は、再び助手に合図した。
天井からさらにもう一本アームが伸びてくる。
ヒル魔はそのモーター音をとらえて、身体をよじる。だが、アームは容赦なくヒル魔のそそり立っているものへ伸び、カチャリ、小さな金属音をさせて離れていった。
『……!』
ヒル魔のものの根元に、金属製の輪がはめ込まれていた。
「……だから、言ったんだ。イってもいいぞ、とな」
根元を緊縛されては、どれほど快感を与えられても、出せない。
「さあ、これからが本番だ」
その言葉と共に、アームの動きが速くなった。
ヒル魔は首を左右に振って、快感を逃そうとする。だが、経験も浅く、おそらく快楽にとらわれるのを嫌って自分でも最低限必要な処理しかしていないだろう男は、簡単に追い上げられた。
『……う、あ……あっ』
ビクビクッ、と身体が跳ねる。イッたのだ。だが、出す事はできない。
「出したい時は言ってくれ。その前に『協力します』と言ってくれれば、いつでも外してやるよ」
硬度を保ったままのヒル魔自身を、アームが更にしごいている。ヒル魔は身体をこわばらせ、荒い息をついている。だが、それ以上追い上げられていく様子はない。やはり、単調な責めしかできないアームでは、これより上は難しい。
武蔵はアームを止めさせた。
ヒル魔が顔を上げる。
「安心しろ。まだまだ、愉しんでもらうから」
武蔵が言うと、ヒル魔は憎憎しげに顔を歪めた。だが、次の瞬間、跳ね上がる。
『な……っ?!』
「強すぎたか?」
『何……だ、これ……っ』
見た目にはわからないが、今ヒル魔は両方の胸に、ある感触を覚えているはずだ。
人為的に触覚の幻覚を作り出す装置。それが実は、あのヘッドギアの本当の役割だ。
アームを操作する必要がない分、効率的だ。見るほうはつまらないが、仕事なのだから仕方ない。
『何だ、って聞いてんだよ!』
「それはな。猫の舌だ」
『な……』
「もちろん全部作り物の感覚なんだがな。猫の舌でなめ上げられてる感触をお前の脳内で作り出してる。上手くできてるだろ?」
ヒル魔は今、ザリザリとした小さな舌が胸のあたりを舐めまわしているように感じているはずだ。
『ぁは……ぁ』
こらえきれず、艶声を漏らす。もっとも敏感な尖った部分を攻め立てられて。
「前はつらいだろうから、後ろにしてやろう」
武蔵が言うなり、ヒル魔の身体がのけぞった。
『っあ……や……』
あからさまに戸惑った表情。
「今度は、蛇の舌だ。目にもとまらぬすばやい動きと、二股に分かれた舌先。お前、アヌスの経験は……当然、ないな」
後ろのすぼまりを這いまわる感覚に、ヒル魔はのけぞったまま、苦しげなあえぎ声をあげる。胸への感覚も続いている。
ヒル魔が身悶えるにつれて、身体を支えるロープがぎしぎしと揺れた。
『はあっ、はあっ』
初心なわりに頑張るじゃないか。
「……後ろの穴が開いてきたぞ? 気持ちいいのか?」
ヒル魔は激しくかぶりを振る。だが、一度緩んでしまったところへ舌の感覚が殺到して、さらに内部へと押し寄せる。
無数の舌が微妙な蠕動を伴いながらも、すさまじい速さで抜き差しされる。
『あ……あ……』
ヒル魔はぶるぶると身体を震わせている。初めての感覚だ。気持ち悪さもあるだろうが、それ以上にローションの助けもあって、快感が勝っている。その証拠に、ヒル魔の前のものはかなり長く放置されているのに、萎えずにいる。
「さて。そろそろ前も可愛がってやろう」
『あ……ああっ』
ヒル魔が悲鳴をあげた。
猫の舌の感覚が、ヒル魔自身の先端部分を刺激したからだ。その舌はさらに2枚、3枚と増えて、先端のみならず、そこから裏へ続く膨らんだ筋や、張り出した周辺を這いまわる。繊細な部分だ。猫の舌では痛みと快感が混ざったように感じるかもしれない。だが。
『ぅああっ! あっ、あっ!』
ヒル魔はガクガクと大きく身体をゆらす。カクカクと腰も揺れている。
イクのを我慢しているのではない。それだけに、よけいつらいはずだ。
そして、ひときわ大きくヒル魔の身体が跳ね、ヒル魔自身も、ビクビクと上下に跳ねるように動いた。
『ああっ、あ……っ』
きつく戒められているところから、無理やり押し出された濃度の濃い液体が、先端から白く泡を吹きながら滲み出す。
「またイったな」
出せないまま、イカされる。つらいはずだ。
ヒル魔は歯を食いしばっている。
「どうだ? そろそろ外すか?」
無論、その前に言ってもらう言葉はあるが。
だが、ヒル魔は何の反応も返さない。
失神しているわけではないことを武蔵はモニタで確認する。
意識はある。極度の興奮と緊張状態にはあるが。
「……そうか。まだ愉しみたいか。欲張りだな、お前」
わざと揶揄するように笑い声をたて、
「望みどおりにしてやろう」
武蔵はマイクを切ると助手に向かい、「上げろ」と短く命じた。
助手は小さく頷いて、すぐに手元の機械を操作する。
すると、武蔵のヘッドホンからヒル魔の悲鳴が響いた。
あまりの声の大きさに武蔵は咄嗟にヘッドホンを外す。外したせいで、室内に声が漏れた。
「おい! 音量下げろ!」
武蔵が声を荒げると、助手のひとりが慌ててボリュームのつまみを操作した。
今、ヒル魔は体中を無数の舌でなめまわされている状態だ。ランダムなプログラムまかせで、何の種類がどこを、ということは武蔵にももはやわからない。
……よがり狂う。
まさに、今のヒル魔がその状態だ。けれど、実のところ、この場所では珍しくない光景だった。今までにも何人か、同じ方法で廃人同様にしたことがある。だが、今回は……。
ほっときっぱなしってワケにいかないのがつらいとこだよな……。
武蔵は室内の複数のモニターを見ながら、タイミングを見計らう。手で合図すると同時に、ぴたりと悲鳴が止んだ。
ふいごのように荒い息をつきながら、ヒル魔は弛緩した。余韻のためか、小さく痙攣している。
「……そろそろ限界じゃないか?」
武蔵の問いかけにしばらく何の反応もなかったが、やがて小さくかぶりが振られる。
「そうか」
武蔵は手を伸ばして、いくつかキーを操作する。
ヒル魔の痩身が、びくりとすくみあがった。そのまま硬直し、カクカクと震え始める。再び、後ろに与えられた感覚。だが今度は蛇の舌ではない。
快感より気持ち悪さがあるのだろう。前のものがうなだれかかっている。
武蔵は更にキー操作をし、前にも適度な刺激を与える。犬の薄い舌。技巧もへったくれもない、熱心なだけの、但し疲れを知らぬ舌使い。猫の舌ほど刺激は強くない。緩慢に追い上げられるはずだ。ヒル魔は正直に身体をのけぞらせ、前を張り詰めさせた。
前はこれでよし、と。後は……。
「お前の後ろの穴を舐めまわしているのが何の舌か分かるか?」
返答は、ない。
「……人の舌だ。初めての経験だろ?」
やはり返答はないが、武蔵も返答は期待していない。
「さすがに器用なもんだろ。やっぱり馴染ませるためにはこれぐらいしないとな。お前、バージンなんだし」
『!』
ヒル魔がぎょっとしたように顔を上げる。
「……やめてもいいぞ? やめるか?」
だが、武蔵がそう問うと、やはりヒル魔はかぶりを振った。
それにしても……あの、最初の余裕はなんだったんだ? ここまでされる可能性を考えてなかったワケじゃなかろうに。いや……考えてなかったのか? だとしたら大笑いだな。
「……」
武蔵は黙ってキーを操作する。
ヒル魔が全身をこわばらせ、ガクガクと震え始めた。
それまで後ろへ抜き差しされていた人の舌が、やおら大きく、ぬるぬるとした触手のような感触に変わり始めたからだ。
「……これはな、ヒル魔。馬の舌、だ。犬や猫のようにザラついたところがまるでなく、太くて、想像を絶するほど長く伸びる」
武蔵がそう話している間にも、ヒル魔の後ろは拡がりつつある。いや、あるような感覚を与えている。
『さ……裂ける……』
それはない。無数のセンサーが、そうなるぎりぎりの度合いを計算している。
ずるっ、と舌が内部の奥深くへ入り込む。
『ひ……っ』
ひきつるような小さな悲鳴をあげて、ヒル魔は頭をのけぞらせた。
「おっと……入れすぎちまったな。少し戻すか」
今度はずるずると引き抜かれる感触。
『あ……あ……』
やがて、ゆっくりと抜き差しが始まった。
差し込むときはじれったいほど緩慢に。引き抜く時はすばやく。
がっくりと頭をあおのかせ、小さく震えていたヒル魔だったが、前へ与えられる刺激もあいまって、徐々に声を漏らし始める。そこには、はっきりと愉悦の響きがあった。
サービスしてやるか。
武蔵は胸への刺激を追加する。
『ああっ、はあ……あっ』
ヒル魔は身をよじりながらよがり声をあげた。大きく開いた口から舌を突き出している。
やがて、『あああ……あ……』と長く叫び、がくん、がくん、と大きく2度ほど痙攣し、ヒル魔は果てた。
ヒル魔の後ろがせわしなく伸縮を繰り返しているのが、別角度のカメラを通じて見て取れた。

ヒル魔の呼吸と心拍数が落ち着いてきたのを見計らって、武蔵は金属製の戒めを取り除いた。無論、一度も出させていない。拘束されている限り、自分で慰めることも不可能だ。
「前もいじってるとはいえ、後ろでイけるとはたいしたもんだな」
『……おい、目隠し外せ』
かすれてはいるが、思いのほかしっかりとした口調でヒル魔が言う。
てっきり、手足を自由にしろと言うかと思ったが。だが、いずれにせよ。
「断る。他に言うことは?」
『楽しめたか?』
「お前の本番プレイを見てか? うぬぼれるな」
ヒル魔は何がおかしいのか、ケケケ、と笑い声をあげた。
「……今日はここまでだ。拘束も宙吊りもそのままだが。せいぜい息子をなだめて寝るんだな」
『おい、待てよ』
「なんだ」
『メシは?』
うかつにも呆れてしまった。この状態で、食う気か、こいつは。
「食ったら、出るぞ」
『別にかまやしねぇよ』
そうかよ。
「後で機械に食わせてもらえ」
今度こそ、武蔵は通信を切った。
窓に背を向け、ヘッドホンを外すと、助手に問い掛ける。
「……今までの録画は?」
「できてます」
「ヤツに聞こえるように、流しっぱなしにしておけ」
はい、と助手が答えて操作を始めるのを目の端に捕らえながら、武蔵は部屋を後にした。
胸の中に妙な苛立ちがあった。それがなんなのか、がはっきりしない。
しっかり感じていたくせに、泣き喚いていたくせに、首を縦に振らない相手の頑固さに、か。あるいは、まだ少年と言っていい年齢の相手を攻略できなかった己の力量にか。
それとも……。
武蔵は首を振ると、頭の中にちらつくヒル魔の姿態を締め出した。



To be continued...

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なんで続いてるんだろう…;;

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