『2』


「……どうだ?」
モニタをながめている助手に歩み寄り、問いかける。
助手は軽く頭を振り、「変化ありません」と応えた。
室内にいる助手はひとりきり。モニタを見て何か変化があれば武蔵を呼ぶことになっているから、ほとんど挨拶のようなものだ。
なかなかしぶとい、と助手の表情が語っている。この助手とて素人ではない。
「そうか……」
幻覚による激しい攻めから一転、まる一日何もせずに放置した。
快感はもとより、それ以外の音や空気の流れも一切止めて。目隠しは相変わらず。手足の拘束は筋肉が固まってしまうので、多少体勢を変えながらも続けられている。
当然、食事も水分摂取もなし。
武蔵もモニタを見やる。
不自然な増減……緊張などを示す兆候も、まるでない。
ガラスの向こうに目をやる。ヒル魔はまどろんでいるようで、ピクリとも動かない。
「水だけやっておけ」
助手に短く告げると、武蔵は一旦外に出た。
水といっても単なるミネラルではない。様々な栄養素が含まれている。ヒル魔に衰弱されては困るからだ。
30分ほどして戻ると、助手がアームを操作して水を流すためのチューブを片付けているところだった。
それへ、ご苦労と武蔵は声をかける。
「代わろう。休憩してきていいぞ」
退屈していたらしい助手は、わずかに表情を明るくする。
「……何時ぐらいに戻ればいいでしょう?」
「そうだな……」
食事をしたり、着替えたりもしたいだろう。少しはゆっくりさせてやろう。
武蔵は時計を見やり、2時間後の時刻を告げた。
助手が出て行くと、オートロックで鍵がかかる。
権限を与えられたわずか数人しかこの部屋に入る事はできない。
『よう! いるんだろ?』
不意に、スピーカーから、声。
思わずぎくりと身体をこわばらせる。
「……」
見えているはずはない。ハッタリだ。だが、なんと的確な。
『退屈だ。相手しろよ』
「……」
『シカトか? 軍の変態エリートドクター様はお高くとまってやがんなぁ』
言葉のわりに、怒っている様子ではない。
そして、間違いなくここにいるのが武蔵だと確信している。
なおもムサシが黙っていると、かすかな声が流れてきた。
「?」
手元のバーを操作し、スピーカーのボリュームを上げる。
歌……か?
蛭魔は鼻歌を歌っているようだ。
武蔵はしばらくそれを聞いていたが、歌詞に眉をひそめた。
I'll take you to the candy shop.(私をキャンディショップへ連れて行って)
Boy one taste of what I got…(私のを味合わせてあげるから)
さらに歌は続く。
……あなたのを全部頂戴。あなたがイクまで……。
あからさまな内容に、腹が立った。
こいつ、馬鹿にしてやがる。
手元のボタンを押した。
「……リクエストがありそうだな?」
すぐさま、ケケケと耳障りな笑い声が返ってきた。
『別に、ねぇよ』
「一昨日のヤツがよほどよかったらしいな? 欲しいなら欲しいって言えよ」
蛭魔はすぐには答えなかった。
顔をあげ、武蔵がいる部屋のほうに向ける。
目隠しされているのに、何故わかる?
これも、ハッタリか?
蛭魔はゆっくり口を開くと、静かな声で、欲しい、と囁いた。語尾がかすれている。まるで、情欲をおさえきれないように。
歌を聴こうとボリュームを上げていなければこうまではっきりと聞こえなかっただろう。
武蔵は舌打ちをこらえてボリュームを下げた。
そのまま黙って手元の機械を操作する。
ざあ、と蛭魔にシャワーが降りかかる。
さすがに驚いたらしく、蛭魔があわてたように頭を左右に振る。
シャワーはすぐに止んだ。
『おい! なんだったんだ、今のは!』
「ローションだ。一昨日も使ったが」
『……』
「多少耐性ができてるかもしれないからな。今日は少し濃度を上げてある」
やはり効果は確かで、メットを装着している間に、蛭魔の体温が上がり始める。
武蔵はそれを確認してから、ボタンを押す。
途端、蛭魔の身体が跳ねた。
「……待たせたな。コレが欲しかったんだろう?」
一昨日と同じく、蛭魔の中心を舐め上げている舌の感覚。今日は、人間の舌だ。
蛭魔はすぐに息を荒げ、小さく声を漏らし始める。
くくっ、と武蔵は笑った。
「何とか言えよ。よがってばかりいないで」
今日は、根元をしめつける輪はない。蛭魔のそこは、すでに十分立ち上っている。
『あ……あ、はぁ……あぁ……あ、いい……』
蛭魔はおそらく無意識にだろうが、小さく頭を振る。
「……そうか。いいか」
武蔵は呟くと、再度ボタンを押した。
蛭魔がかすかに眉根を寄せるのが見えた。
「続けて欲しいか? なら、言うことがあるだろう」
『……』
案の定と言うべきか。蛭魔は答えない。
「ふぅん……」
思わせぶりに呟くと、ムサシは再度2つ3つボタンを操作する。
「おい、蛭魔」
『……んだよ』
「舌を前へ突き出してみろ」
『ああ?!』
「舌だよ。お前の舌。ベーっ、てな」
目隠しをしていてさえ、不可解な表情を浮かべているのが良く分かる。
だがヒル魔は言われたとおり、舌を出した。
その途端、んっ、という声とともに、身体が震える。
くく、と武蔵はまた笑う。
「大したものだろう? 自分自身の舌の感覚とも直結させられる」
『……』
蛭魔のすぐ口元に、己のものがつきつけられた状況になっている。現実にはあり得ないことだ。
「どうした? 遠慮なく舐めろよ。リクエストどおりだ」
それでも、蛭魔は動かない。萎えるのを待っているのか。
武蔵は後ろへの刺激を開始する。ただし、あくまでも緩やかなものだ。
蛭魔はせつなげに眉を寄せる。
はあ、とため息を漏らした瞬間、またびくりと身じろぐ。勿論、物理的に自分自身に息がかかるはずはない。脳内でそんな幻覚を作り出しているだけだ。が、幻か否かの区別がつかないほどのタイミングで機械は動作する。
やがてのろのろと蛭魔は舌を出した。
最初は少しずつ。やがて、もっと大きく。
『んっ……あ……っ』
「自分の味はどうだ? セルフフェラってやつだな」
すっかり耽溺しているようだ。応えはない。
モニタのひとつには、蛭魔の表情が捉えられるようにズームインした画面がある。
その中で、蛭魔の猫のように薄い舌が蠢いた。上下に、あるいは円を描くように、翻る。
ピチャピチャという音が聞こえてきそうだ。
『はあ……っ、あ……っ、あっ』
喘ぎ声とともに、蛭魔の中心にあるものの先端から、白いしずくが滴る。
糸を引いて、次から次へとあふれ出す。
蛭魔は、くちづけするように口をすぼめる。唇が、ちゅ、という音を立てた。
『んんっ』
びくんっ、と身体を震わせる。
次にあんぐりと口を開け、ゆっくりと頭を前へ倒す。
何かを口に含んでいるかのように、丸く開いたまま、顔を前後に揺する。
『ん、んっ、ぅんっ』
開いた口の中で、舌が器用にくるくると回っている。
どこかで、ごくり、と生唾を呑み込む音がした。
武蔵は、ハッと我に返る。画面を食い入るように見つめていたのは、他ならぬ自分だった。
やっとの思いで画面から視線をはがし、時計に走らせる。
蛭魔がフェラを始めてから10分少々。
頑張ると思うべきなのか、それとも馴れてないから時間がかかるのか。
いや……。
確かに最初のうちはぎこちなかったが、今のアイツはどうだ。
武蔵は思わずまた画面を見やる。
元々器用で、いくら自分で自分のイイところがわかるといっても、ついさっき初めて咥えたとは思えない。
あの舌使いは……まるでプロだ。
蛭魔は先端に舌先をねじ込むかのようにして、細かく震わせている。
『ぁあっ、あっ、あっ……あっ』
ヤバイ!
蛭魔の身体が小刻みに震えだしている。
あげる声も、せっぱつまったものになりつつある。
武蔵はあわてて手元のボタンを押す。
だが、一瞬遅かった。
蛭魔の舌がとりわけ大きく翻り……
『ああ、あっ……いいっ、イク……イ、ク……っ!』
先端から勢いよく白濁したものを吹き出した。
『あ……は……』
がくがくと腰を突き出す。気持ちよさそうに眉根をよせ、口を開いて。
噴出が収まり、はあ、はあ、という荒い息遣いが響く。
武蔵は動揺を押し殺して口を開いた。
「ずいぶんお楽しみだったな。恥ずかしくないのか、お前。まさにひとりよがりってヤツだが」
蛭魔が、にい、と唇の端を吊り上げる。
『……間に合わなかったみてーだな』
「……何のことだ」
『隠すなよ。本当は寸止めするつもりだったんだろ? イカせちまったら拷問にならねぇもんな』
「……」
『なんで遅れた? てめぇ、こんなことはしょっちゅうなんじゃねぇのか?』
蛭魔は答えを待たず、ああ、そうか! と叫ぶ。
『てめぇはコレが楽しみなんだもんな。変態ドクター? さてはテメーもシコってやがったんだろ』
「違う!」
気づいた時には、叫んでいた。
途端、哄笑が響き渡る。
『ムキになってんじゃねぇよ』
武蔵は音を立てて音源を切った。
蛭魔の言うように自分を慰めてなどはいなかったが。
武蔵のそこは、確実に反応を示していた。兆し程度ではなく、痛いほどに張り詰めている。
白衣に隠れて傍目にはわからないのが幸いだ。
何人も被験者を見てきて初めてのこと。もっときつい事をしたこともあるというのに。
武蔵は内線を操作して助手を呼び出す。
急用が入ったからすぐに代わりに戻ってきて欲しい、と告げて、武蔵は部屋を後にした。
いずれにせよ、己のこの状態を何とかしなければ。
こうまでなってしまったらヌくのがてっとりばやいが、先刻見た蛭魔の舌の動きを思い出さずにできるか、はっきり言って自信はなかった。


To be continued...

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ぎゃー……続いちゃった;;
文中に出てくる歌は、50セントのキャンディショップです。
全米トップなのでご存知の方も多いと思いますが。