『好きなだけ』(前編)
後ろ手でドアを閉め、ムサシはじれったいほどゆっくりとした足取りで室内に入ってきた。
ヒル魔はソファに腰掛けてその様子を見ていたが、ムサシはヒル魔と目があうと、片頬を歪めて言った。
「……お前、そんなにしたらバレるぞ?」
ムサシに射精禁止を言い渡されてから、数日。
無論、ヒル魔もムサシも常と変わらない生活を送ってはいた。
「バレるって……何がだ」
ソファに長い手足を投げ出したまま、ヒル魔はぶっきらぼうに応じる。
ふたりとも、制服姿だ。
「気がついてないのか?」
ムサシはそこで一旦言葉を切り、さらに唇の端を吊り上げる。
「ずっと俺の事を目で追ってたくせに」
「……」
気をつけていたつもりだった。
まさか、そんな目でムサシを見ていると思う人間はいないだろう。
だが確かに、特に最近はムサシを見るだけで欲情してしまう。
本当は、今も。
今日こそは、許してもらえるはずだ。
そのための二人きりなのだから。
そう思うと、息が荒くなりそうだ。
くく、とムサシが含み笑いをする。
す、とごつい手が伸びて、ヒル魔の頤を掴んだ。
口付けをされるかと思ったが、ムサシはヒル魔の耳元へ唇を寄せ、
「我慢してたんだもんなあ……?」
息を吹き込むように、低く囁いた。
それだけで、ヒル魔は背中があわ立つように震える。
「ん?」
至近距離で視線を合わせてくるムサシへ、ヒル魔は小さく頷いた。
もう、こらえきれない。
口を薄く開いて、詰まる息を逃がす。
きっと、瞳は濡れているだろう。
ムサシは手を離すと、ヒル魔にも立ち上がるように言った。
「服、脱げよ」
ムサシの目にも、欲望の光がある。
それを見てしまったら、否とは言えない。
ヒル魔は上着を脱ぎ捨て、シャツのボタンを外していく。
「……すげぇな。触ってもいねぇのに、乳首立ってるぞ」
ムサシの手が伸びて、触れる……と思った寸前で、止まった。
「なあ。自分で触ってたのか? オナニーは禁止してねぇんだもんな」
ヒル魔は、ムサシの問いに、また小さく頷く。
出さなければいいだけで、触れるのまでは禁止されていない。
けれど、何日も経つうちに、シャワーの刺激やウォシュレットの刺激は勿論、何もしなくても常に半分勃っているようになった。
下着にこすれただけでもガチガチになる。
ムサシは視線を落とし、ヒル魔の股間を見やる。
そこは当然、もうすっかり張り詰めている。
ムサシの視線を受けて、布越しでもわかるぐらいはっきりと、股間が脈打った。
「お前、そんなにふくらませてたら、制服の上からでもヤベェぞ?」
自分で命じておきながら、ムサシは勝手なことを言う。
ヒル魔が思わず眉根を寄せると、突然、胸の飾りをつままれた。
「……あっ!?」
けれどそれは一瞬だけで、なだめるように軽く撫ぜた後、すぐ離れてしまう。
「さ、下もな。ヒル魔」
その言葉どおり、ベルトを緩め、下着ごと取り去った。
これでヒル魔は生まれたままの姿だ。
ただし、その中心にあるものは、常に無く猛っている。
「よっこらせ」
ジジむさい掛け声とともに、ムサシはヒル魔の正面にしゃがみこんだ。
驚いてヒル魔が下がりかけるのを、手で制する。
ムサシの目の前にあるものから、たちまち透明な液体があふれ出した。
「ふぅん……。洗ってはいたんだろ?」
「あ……ああ」
「で、ついでにちょっと出してもみた、と」
珍しく、返答までに一瞬間が空く。
何を言われたのかわからなかった。
「ち……違う! してねぇ!」
「ホントかあ?」
ムサシがニヤニヤと笑いながら見上げる。
「! っ、ほん……とに……オレ、は……っ」
言葉が詰まる。
口先王とまで言われたこの自分がなんてザマだ。
驚いたことに、泣きそうになった。
すぐに察したムサシが、ぱっと立ち上がり、ヒル魔を抱き寄せる。
「スマン、スマン。俺が悪かった」
股間丸出しで頭を撫ぜられて、なんてマヌケだ。
そう思いはするが、自分からムサシを突っぱねる事もできず、ヒル魔はただその胸に顔をうずめる。
ヒル魔の後頭部を撫でていた手が、うなじへ下りてきた。
襟足やえらの辺りを指先が掠める。と、同時に耳を甘噛みされる。
背中に回された手が、すう、と背筋を這い上がった。
「……あ……あ……」
あっという間に、ヒル魔の頭に霞がかかり始める。
何日間も、じりじりとくすぶっていた火種は、簡単に燃え上がる。
ヒル魔はムサシの背中にすがりついて、小さく喘ぐ。
下半身をこすり付けたい気持ちにはなっていたが、さすがにそれは理性で押しとどめた。
ムサシの手が、今度は背中を這い下りて、太もものあたりをさまよう。
指先でそのあたりを、羽毛のように柔らかく触れられ、両のふくらみを撫ぜられる。
「ひっ……ひぁ……あ……っ」
ムサシが口付けてくると、ヒル魔は夢中でそれをむさぼった。
ムサシは一方の手で尻を揉みしだきながら、指で割れ目を押しのけ、奥まったすぼまりへ触れてきた。
「あ、あ……っ」
「ここは? こっちではシたのか?」
耳元で囁かれる問いに、ヒル魔は何度も首を縦に振った。
「そうか。でも出してはいないんだな?」
「あ……出して、ない……」
ヒル魔は無意識のうちに、刺激を求めて、胸をムサシのシャツへこすりつける。
ムサシの指が、今度は脚の間をくぐり、二つの果実を転がした。
「ああっ! あっ!」
くらり、とヒル魔の視界が揺れる。
長いお預けの後で、この刺激はきつい。
今の状態ではその程度の刺激でも出してしまいそうだ。
ヒル魔は唇を噛んで悶える。
ムサシが、身体を離した。
フローリングの床を見ると、ヒル魔が先走らせたもので、コインほどの水溜りがいくつもできていた。
「寝室へ行くか」
ムサシがぽつりと呟くのへ、ヒル魔も頷き返した。
さすがにここを汚す気にはなれない。
灯りを付けないまま、ベッドへ横たわる。
開け放したドアから入る明かりで、視界は十分だ。
「お前、朝立ちとかするのか」
自分も衣服を脱ぎながら、ムサシが尋ねる。
「朝どころか、ずっと立ちっぱなしだ。しょんべんと一緒にがまん汁まで出やがるし」
尿道を通るその感覚が、射精に似ていて気持ちいいからだ、とは言わなかった。
だが、その感覚が欲しくて、いつも以上に水分を取っていたのは確かだ。
「へえ……、そうなるもんか」
ムサシはそう呟いて、ヒル魔の脚の間に陣取る。
「どうせテメェはオレのことなんざおかまいなしに散々オナってやがったんだろ」
そう思うと、本気で腹が立つ。
ムサシは、ニヤリと笑う。
「いいや……オナってはいたけどな。お前のことを考えてた。お前はきっと今頃、イキたくてイキたくて仕方ねぇんだろうな、と思いながらな。ここを……」
そういいながら、ヒル魔の胸に手を伸ばしてくる。
「自分でいじりながら悶えてるんだろうと思ってな」
かりかりと爪でひっかかれるようにされて、ヒル魔はのけぞった。
「は、あ……っ、あ……っ」
胸への刺激が、下半身まで響く。
ムサシは次々と責め方を変える。
そして、顔を寄せると、吸い付いた後、軽く歯を立てた。
「あ、いい……っ」
本当に、限界だった。
ヒル魔自身は、赤く充血し、ひっきりなしに先走りを流している。ほんのわずかな刺激でも爆発しそうだ。
「ムサシ……もう……」
はあはあ、と口で息をしながら、ヒル魔は切なく眉をひそめ、ムサシを見やる。
「もう……?」
笑いを含んだ声で、先を促される。
「も、我慢、できない。イキたい……。出し……たい……っ」
ムサシはさらに笑みを大きくすると、ヒル魔の膝をM字に開いた。
「わかった。イケるだけ、イカしてやるよ」
それは、新しい責めの始まりだった。
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016『鬼畜』の続き。すみません。ちょっと長くなっちゃったので、ここで一旦切りまーす。
お題は後編でこなすつもりです〜(汗)