「Son of a gun」-2

唇といわず、まぶたといわず、首筋といわず、ムサシの口付けが降ってくる。
耳朶を甘噛みされ、耳の穴に舌先をさしこまれ、ヒル魔は息が荒くなるのをこらえられなくなった。
ムサシの手が、バスローブの紐をほどいてくる。
胸元にくり返し、濃厚な愛撫。飾りの意味しかもたないはずの突起を舌先でなぶられる。薄くやわらかな皮膚を通して快感が伝わる。
十分に空調の聞いた部屋だが、暑かった。少しばかり飲んだビールのせいもあるだろう。
ヒル魔は自分で袖から腕を抜いた。
下着はつけていない。どうせ脱ぐのだからとつけなかった。
かろうじて被さっていたバスローブがシーツに広がり、おのれのものが、芯を持って立ち上がっているのが見えた。
「絶景だな……」
小さく、低いつぶやきが降ってくる。ヒル魔はとっさに身体を縮めかけたが、今更恥らうのも馬鹿らしいのでやめた。
覆い被さっていたムサシの身体が遠のいて、ふいに軽くなる。
ムサシはヒル魔の背中の下に腕を差し入れると、いきなり身体をぐるりとひっくり返した。
太ももあたりに手をかけて腰を引き上げるので、ヒル魔は自然、四つんばいになる。
「なっ……なにす……っ」
ヒル魔は目をむいてムサシを振り返った。
「男同士がどうヤるか、知らないわけじゃねぇだろう?」
「……」
知らないわけではない。ないが、知識と実演とでは雲泥の差がある。ここまで屈辱的なポーズだとは思わなかった。
「心配すんな。ムリにやるつもりはねぇし、一応、勉強はしてきた」
「勉強……?」
とっさに浮かんだのは、風俗。風俗嬢とムサシが絡み合う構図。
次の瞬間、ヒル魔はキレた。
手が無意識に動いて拳銃を掴む。身体をひねり、ムサシの頭にぴたりと銃口をあてた。
「実技」で「勉強」してきたのだと思った。
いわゆる、性感マッサージ。
前立腺マッサージを受けながら、あんあん言っているムサシの図など想像したくもないが、浮かんでしまったものはどうしようもない。
ムサシのみてくれなら18歳未満だとは思わないだろう。
そして、自分の行為が嫉妬から来ているものと気づかないほど、このときのヒル魔はキレていた。
「……オイ。勉強ってナンのことだ」
鋭い犬歯をむき出して言う。
一方、ムサシはなぜ銃口を向けられているのかわからないという表情で、それでもヒル魔の本気は感じ取れているのか、手を止めて
「雑誌とか、ビデオとか」
とつぶやいた。
その言葉で瞬間的に頭が冷えたヒル魔だが、今度は、書店でゲイ雑誌を見ているムサシが思い浮かんでしまう。
まさか学生服ではないだろうが、ふだん着もどこかおっさんくさいムサシが、ゴツイ面体でゲイ雑誌を立ち読みしている姿など、あまりに「ハマりすぎ」だ。
しかもその相手は自分なのだ。
軽くめまいを覚える。
だが、納得のいったヒル魔は、ややバツの悪い思いで……もちろん表情には出さないが……銃を下ろした。
仕方ない。
再度、ヒル魔は不承不承前を向き、枕を手繰り寄せると、抱え込んで顔をうずめた。先ほどと同じように腰を上げる。いかにも「どうぞ」と言っているようで正真正銘恥ずかしかったが、ムサシを疑ってしまった罪滅ぼしのつもりだった。
ポン、と何かのふたが開くような音がして、太ももにひやりとした感触が与えられた。
その冷たさに思わず身体を竦めると、すまん、とムサシがうっそりとつぶやいた。
「冷たかったか。人肌にあっためてやるもんなのか?……これは」
「それより、何ぬったくってんだよ、テメー」
「ベビーローション」
「……」
なんとも似合わない台詞に思わず沈黙する。
「ローションは必需品だとあったから、買ったんだが……コンビニで」
「大丈夫なのか、それ……」
直腸に入れても。という言葉は省略したが、ありていに言えばそうである。
「たぶんな」
おそらくなんの根拠もないだろうが、ムサシは頷く。
……このトシで泌尿器科の世話にはなりたくなくねぇぞ!
という叫びは、しかし、内心でとどめておいた。
「もういい、さっさとツッコめよ」
ふてくされたようにヒル魔はつぶやいたが、ムサシは聞き入れなかった。
「そうはいくか。俺ばっかりイイんじゃ、ふたりでしてる意味がねぇだろう」
「……」
ムサシに抱かれているというだけで、ヒル魔には喜びだ。快楽は二の次。だが、それを言う気はないし、この先も口にするつもりはなかった。
ヒル魔が黙ったのを、納得ととってか、ムサシは行為を再開する。
「それにな。最初に痛い思いをすると、それが記憶に残って、かえって慣れない……もんらしい」
手を動かしながら、ムサシはにわか仕込みの知識を披露する。
ここで「へえ」とか「そうか」と言うのも間抜けである。ヒル魔は黙っていた。
ローションを載せた大きな掌が、ヒル魔の細い太ももをらせん状に這う。ときおり下腹をなでるが、肝心の場所には触れない。
じらしているつもりなのか……?
気持ちが悪いわけではないが、そうそう気持ちがいいというわけでもない。
すると、背中をちゅっ、と吸われた。
ざらざらとした無精髭の感触と共に、背筋を滑り降りていく。
くすぐったい。
ヒル魔はかすかに背中を捩じらせたが、そのまま耐えた。
丁度、割れ目の始まるあたりを舌先でくすぐられる。
「……っ」
一連のやりとりでうなだれ気味だったそれが、再び芯を持ってきたのが自分でもわかった。
ムサシは相変わらず脚にローションを塗ったくっている。自分の興奮の度合いと共に、可でも不可でもなかった手の動きが、快感に変わってくる。
高く掲げた腰の中央に、ローションが垂らされるのを感じた。
冷たい、と思ったのは一瞬で、その液体が流れていく先に意識を奪われる。
とろりとしたローションはゆっくりと双丘を割って、滑り落ち、かすかに隆起するすぼまりのあたりで一瞬止まる。それからさらに前の方へ滴り、触れられぬまま屹立しているヒル魔自身へ伝って落ちた。
その動きを、息を殺して追ってしまったヒル魔は、そこまできてやっと、詰めていた息を吐き出した。
ローションはなおも垂らされていたが、ふいにムサシが指でそれをせき止める。ちょうど、後ろの受け入れる箇所で。そして、その後ろの入口の周囲を、指先でほぐすようにやさしく揉んだ。
「あ…」
ヒル魔の口から小さく声が漏れた。声が押さえられないほど快感なわけではない。だが、どういうわけか、声が出る。
くちゅ、くちゅ、とムサシの指先がたてる湿った音を、ヒル魔の耳は拾ってしまう。自分の地獄耳をうらめしく思ったのは初めてだ。
「は……あ、……は……っ」
ヒル魔の前は何もされぬままだが、充血しきっていた。
やがて、ムサシの指が離れる。と、つぷ、と何かが差し込まれた。
思わず、びくりと身体を跳ね上げて、ヒル魔はどなる。
「ひとこと言え!」
「すまん、綿棒だ」
「ああ。だろうと思ったよ」
ヤケクソ気味につぶやくと、動かしていいか? と聞いてきた。
それには答えず、ヒル魔はふたたびつっぷす。
綿棒が、ぐるり、ぐるりと回されながら押し込まれてきた。
未知の感覚に自然と身体が震える。入口からほんのわずかに進んだだけだろうが、もともと受け入れる器官ではない。ずいぶん奥まで入った気がする。
こんな……。
あの細い綿棒一本でこの感覚。これで、ムサシを受け入れることができるだろうか。
「ん……!」
くすぐったいような感じをおぼえて、ヒル魔は唇を噛んだ。とたん、ぴたりと挿入が止まった。
かわりにこきざみに前後にゆすられる。しばらくして、ずるりという感じで、出て行った。
ヒル魔はそっと、だが大きく息をつく。
しかし少ししてまた湿ったものが入ってきた。
「……なあ、もしかして本数増えてねぇか?」
「わかるか? 輪ゴムで束ねてみたんだが」
「準備いいなぁ、おい」
半分は皮肉。半分は本気である。
さきほどヒル魔が反応したところまできっちり進んで止まった。また、小刻みにゆすられる。
「なあ……。気持ちが悪いわけじゃねぇが。これ、ずっと続けんのか?」
「いや。ちょっとこのままでいてくれよ」
綿棒を中に残したまま、ムサシの身体が離れる気配がする。
「おい、冗談じゃねぇぞ!」
「大丈夫だ」
すぐ側で声がして、バスローブの紐を解く衣擦れの音がした。
ムサシもローブを脱いだのだ。
ムサシの手が、今度はヒル魔の身体をあおのかせる。
膝を持ち上げMの字にすると、「ちょっと持っててくれ」と言って来た。
なんで俺がここまで……と思いはするものの、ここでそれを言ってしまっては全てがパアだ。おとなしく自分で膝裏をかかえる。客観的にどんなポーズかというのは意識の外へ追い出した。
自分の秘所はまる見えだった。まあ、今更である。が、いつもと違うのは後ろに何本も綿棒を差し込まれているということだ。
すると、ムサシが身体をかがめて、ヒル魔のそこを覗き込んだ。
「! ……や、めっ……ナニ見てんだよ! この糞エロジジイ!」
「いや、場所をな」
つぶやきつつ、ムサシが手をのばしたのは、蟻の門渡りといわれる、前と後ろの間のところ。
ローションで湿らせたムサシの指が、ぬるぬるとそのせまいところを往復する。
「……あ、……あ……ん」
強くこすりつけるようにしごかれると、今度ははっきりと快感があった。
立ち上がったモノの、丁度付け根の奥あたりが、絞られるように、好い。
これが……前立腺ってやつか。
冷静な頭の一部でそう考えるが、体はかすかに震えている。
と同時に、後ろに差し込まれた綿棒が抜き差しされはじめた。
「あ……はあ、んっ、あ……っ」
ヒル魔は、のけぞって喘いだ。
「好いか、ヒル魔」
ムサシが低く尋ねる。
「ん……んっ」
ヒル魔の喘ぎを肯定ととらえて、ムサシはさらに指の動きを早くした。
ヒル魔自身が前から吐き出すものが、自分の腹を汚している。
「あ、ムサシ……も、いいから、来い……よ」
「ムリだろう。綿棒とはワケが違うぞ」
「……」
それは、わかる。だが……欲しい。
口には出せない。ヒル魔は、自分の身体越しにムサシを見る。
ムサシはヒル魔のなめらかな太ももに口付けていたが、視線に気付いて顔をあげた。
ヒル魔の視線をどうとらえたのか。
す、と手を伸ばすと、ヒル魔の中心で震えている、充血したものに指を絡めた。
「あ! ああ……っ」
我慢もなにもなかった。
指一本触れられぬままに限界を超えていたそれは、一瞬で爆発した。
「ああ……ああ……っ」
ヒル魔はびくびくと痙攣し、無意識に腰を突き上げた。
ムサシの掌が絞るように揉むのを感じて、また吐き出す。
「あああ……」
顎をのけぞらせ、意識しないまま、高く声をあげた。
今までにないほどの極まりだった。手でいかされたことも何度もあったが、さんざんじらされたせいか、後ろを刺激されたせいか。
長い時間白い液を撒き散らしながら悶えたあと、ヒル魔はゆっくりと身体から力を抜いた。

ご安心ください(笑)続きます。
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